「ポジティブ心理学 コーチングの実践」を読んで

「ポジティブ心理学 コーチングの実践」(Suzy Green & Stephen Palmer編、西垣悦代 監訳:金剛出版;2019)を読んだ。

西垣先生は、臨床コーチング研究会にも参加されており、以前から少しはお話しを聞いていたのだが、今回、この本を読んでみて、最新のエビデンスも知ることができ、大変勉強になった。

 

昨年春の緊急事態宣言時に、「コーチング心理学ハンドブック」(Stephen Palmer著、堀正 監修監訳:金子書房2011)という分厚い本を読んだが、10年前の本であり、最近の動向は知ることができなかった。

ただ、近年、コーチング心理学がポジティブ心理学と融合し、ポジティブ心理学コーチングとして、ポジティブ心理学をエビデンスベーストとしたコーチングを実践していこうという、学術的な経緯や背景が、この2つの本を読むことによって理解することができる。

 

今まで、心理学と言うと、心を病んでいる人についての研究が極めて盛んで、歴史があった。

しかし、ポジティブ心理学も1998年に正式に始まって以来20年間で、目覚ましい研究と実践を積み上げ、理論もかなり確立されてきている。

 

Acceptance & Commitment Training(ACT)は、クライアントが価値を見出すことのできる目標を選択し、その達成を目指し、毎日の生活をより豊かで有意義なものにすることを支援する手法であるのだが、行動療法という観点でみると、このACTは第三の波と位置付けられているそうだ。行動療法の第一波は、古典的条件づけとオペラント条件付けという、科学的に認められた法則に基づいている。第二の波は、認知行動療法という、目に見える行動だけではなく、認知の確認と修正に焦点を当てている。認知行動療法は、かなりの成功をおさめ、今日、人間の行動変容の支援における中心的な理論体系となっている。

そして、第三の波に、先程のACTや、マインドフルネス認知療法、弁証法的行動療法、機能分析心理療法等が含まれるとのこと。

この第三波の支援方法は、症状の緩和を重要視するのではなく、痛みを伴う思考や気持ちがあったとしても、価値に沿った効果的な行為を選択する能力など、行動の柔軟性の拡大を促す。

こういった行動の柔軟性の拡大といった心理学での新しい考え方とコーチングとが融合されてきているのが、現在の考え方の流れのようだ。

 

この他にも、健康とWellbeingを高めるためのポジティブ心理学コーチングの発展など、様々なアプローチ方法における理論やエビデンスが紹介されている。

 

そして、コーチング自体も進化してきていることも紹介されており、「第一世代のコーチング」(1990年代)は、個人のパフォーマンスの管理に焦点を当てていた。「第二世代のコーチング」(2000年代)は、「第一世代」と比べ、より構造化された段階的な独自のアプローチを取っていた。それが近年、「第三世代のコーチング」として、「職場コーチング」といった、個人と組織のパフォーマンスとWellbeingの両方を、

持続可能かつ個人的に意味のある形で高めることに、明確な焦点が当たってきていると解説している。

 

病を治すものから、健康であり続けるために如何していけばよいのかといった、より前向きな考え方でも心理学が捉えられるようになっている。そして、コーチングも、個人だけではなく、個人と組織のパフォーマンスとWellbeingの両方を持続可能な形で高めていく方向性で進化し始めている。そういった、お互いの前向きなアプローチが、今の時代、必要と感じられており、様々な臨床データも取られるようになり、エビデンスとしても確立していっている時代となっており、より一層幅広い人々に受け入れられるようとしていることが、ひしひしと感じられる。

これにより、日本においての予防医学や産業衛生・公衆衛生の分野でも大きく影響を受けるようになるに違いない。私も、今から楽しみである。