「生産性 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの」を読んで

「生産性 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの」(伊賀 泰代 著:ダイヤモンド社;2016)を読んだ。普段、あまり古い本は、「今さら感」が強いので、紹介しないようにしているのだが、これは、本当に5年も前に書かれた本なのかと思うほど、情報の古さを感じさせないものだった。

 

僕自身、「医師の働き方改革」のお仕事をさせていただいている中で、医療機関での業務において「生産性を高める」ことが大切ではないかと感じている。

 

しかし一方で、医療の仕事をする中で、「生産性を高める」ことが大切だと、医療者の方々に言ってしまってよいのか、躊躇する気持ちもある。実際に、「生産性を高める」という言葉に拒絶的な反応を示される医師の方々もおられるし、何となくその気持ちも分かる。そこには、医療行為に生産性というのは、不謹慎なのではないかと言うニュアンスが含まれるのかもしれない。

 

そういった迷いのある中で、この本を読んで、それでも「生産性を高める」ことがやはり大切なのだと自信を持てるようになった。

中でも、組織として、トップパフォーマーと一般社員の違いを認識し、このトップパフォーマーの潜在能力をいかに発揮させ続けるかということを、これほど明確に書かれている内容を見たことが無かったので、かなり僕の中では衝撃的であった。

日本的には、何となく「みんな平等で」的な発想に陥りがちだが、さすがマッキンゼー。

ただ、医師の世界では、「神の手」と言われるドクターもいるように、確かに能力のある医師にフルポテンシャルな環境を整えて、如何に数多くの患者さんを診てもらうかといったことを、もっと真剣に考えることも必要なのではないかと、今の医療体制制度を考えさせられる内容でもあった。

 

また、情報収集においても、如何に必要な情報を効率よく集めて、不要な情報を集める時間を最小限にするのかといったことも書かれていた。

分野が異なるが、学会発表や論文作成・科研費申請等、医師も医学的な情報収集に迫られる機会は多い。その時に、ただ漫然とひたすらに情報収集にあたるのではなく、アウトプットイメージを最初に持つようにし、戦略的に価値が高い情報を集めるようにするといったことが、残業削減にも、自己研鑽の時間の削減にも繋げていくことができると思う。

こういったテクニックを、多くの医局や大学院生達にも知ってもらえれば、研究に費やす莫大な時間を少しでも効率よくすることができ、それが若いドクター達の働きやすい環境に繋がってもいくのではないだろうか。

 

その他にも、会議についても考えさせられる内容が多くあった。一つは「資料は説明させない」こと。「会議の時間で最も生産性が低いのは、資料を読んだ人がその資料を説明するのに使う時間です」「会議で資料作成者に説明時間を与えるのは、その担当者への「ご褒美」なのです」など、確かにと思う反面、そうして来なかっただけに、すぐには受け入れがたいところがあるのかもしれない。

 

そういった、数々の考えさせられることが理路整然と書かれた本である。是非、多くの医療機関の経営陣・管理職の方々にも読んでいただきたい本である。