これまでのパワハラの判決例を通して見えてくるもの

先週末も、「メンタルヘルス法務主任者・産業保健法務主任者資格講座」に参加した。

今回も朝9:30から17:30までと、中身の大変濃い内容で、大変勉強になった。

 

今回、特に印象的だった内容は、「ハラスメントの失敗学」というタイトルで、近畿大学法学部教授の三柴丈典先生からたくさん紹介していただいた、ハラスメントに関する判例の数々であった。

ご存知の通り、今年5月に職場でのパワーハラスメント(パワハラ)防止を義務付ける関連法案が可決・成立された。ただ、我々一般人は、どの様な背景でこういったものが法律化していくまでに至ったかを詳しくは知らない。厚生労働省のホームページ上でも、「パワハラの定義」などが紹介されている。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126546.html

 

三柴先生によると、代表的なパワハラの判例は、ともに平成19年に確定した「名古屋南労基署長(中部電力)事件」と「静岡労基署長(日研化学)事件」とのこと。いずれも「公然性のある人格否定的発言」や「不条理な指示の繰り返し」「その態度に嫌悪の感情の側面があった」などの、所謂、現在パワハラと思われる要素を、初めてパワハラとして裁判所で認定した判例として、紹介いただいた。

そして、「パワハラの認定に際し、本人の職務遂行能力(の低さ)は、さほど考慮されない」ことが示唆されるとも話されており、大変参考になった。

 

さらに、三柴先生は、「もし、そのポジションに対する能力が低い社員がいるのであれば、そもそもそのポジションを外すべき」とも仰っていた。

日本では、まだまだ組織内での年功序列の意識が強く、管理職として能力がさほどないにもかかわらず、順番で管理職を任されることも少なからずある。

ただし注意しておきたいのは、今までのパワハラのトラブル案件の傾向として、そういった「本来管理職としては適性の低い管理職がトラブルを起こしている」ことが多いとも話されていた。

 

昭和の時代には、上下関係が強固で、上司はかならず部下は自分の言うことを聞くのが当たり前であった。また、終身雇用制度の強い時代だったため、少々強く怒られても、そのことが理由では、安易に退職することはなかなか考えられなかった。しかし、令和の時代、その状況は驚くほど大きく変わってしまっている。にもかかわらず、昭和の時代感覚を未だに拭えないまま、「上から目線」でものを言ってしまうと、今の時代、それは忽ち「パワハラ」となってしまう。

 

我々産業医も、各社での衛生委員会等で説明を求められた時に、パワハラを無くしていくためには如何にしていけばよいのか、こういう判例を勉強することによって、具体的にかつリアルな話をすることができるのではないかと思う。

 

以下余談:

今回、長良川での飲み会の翌日だったので、他の先生方がまだ寝ておられる間にホテルを出て、始発近い新幹線に乗るために名古屋に移動し、隙間の待ち時間に駅のホームのきしめんを食べ、爆睡しながら東京へ向かった。受講中3回くらい気がつくと居眠りしていたが、それでも十分に聴きごたえのあるボリュームの内容であった…。