グルカゴンの持つ糖尿病治療の新たな可能性

順天堂大学のスポートロジー研究を行っている先生方と、河盛隆造先生、河盛段先生親子が司会・演者として、「グルカゴンの肝・筋・脂肪組織に及ぼす役割を考える」というタイトルの勉強会に参加させていただいた。

 

インスリンは膵β細胞で作られ分泌されるが、それと対をなしているのが膵α細胞から分泌されるグルカゴンである。大阪大学内分泌・代謝内科学講師の河盛段先生は、グルカゴン研究の第1人者だ。

 

段先生によると、最近、グルカゴンは、インスリンの対極として、ただ血糖を上げているのではなく、糖尿病患者では、血糖応答性のグルカゴン分泌が破綻しており、そのバランスの悪さによって、高血糖にも低血糖にも作用してしまっていることが示唆されているとのこと(Kawamori D et al. JDI;10(1): 26-9, 2019)。このため、1型糖尿病患者においては、血糖値と血中グルカゴン濃度には全く相関関係は認めなかったとのこと(Kawamori D et al. JDI;10(1): 62-6, 2019)。逆に相関関係を認めたのは、血中グルカゴン濃度と腎機能の指標であるBUNのみであったとのこと。このことから、グルカゴンとアミノ酸との関連も臨床においても、今後さらに検討していく必要があると仰っていた。

 

また、1型糖尿病患者において、無自覚低血糖を起こす人は、有意にグルカゴン値が低下していたとのこと(未発表データ)。また、2型糖尿病患者において、空腹時のグルカゴン値と血中CPR値は相関関係があったとのこと(Hosokawa T, et al; Heliyon:13;5(5):e017152019)。そういった意味で、やはりインスリンとグルカゴンは非常に協調性を持って体内で作用していることを改めて感じさせられた。

 

このパラクラインの関係とは別に、アミノ酸の観点から考えていくと、グルカゴンは糖新生の減量としてアミノ酸を消費することによりアミノ酸濃度を下げながら、同時に血糖値を上昇させる。逆に、インスリンは血糖値を下げると同時に、同化ホルモンとして血中のアミノ酸からタンパク質合成を促進し、アミノ酸濃度を下げる。このため、痩せ型の女性で、耐糖能異常がある人に、ただ単にアミノ酸補充を行っても、筋肉量が増えないとのこと。これは現在、スポートロジー研究で明らかになりつつあるそうだ。

これは、痩せ型の女性で耐糖能異常がある人は、インスリン分泌が低下しており、かつグルカゴン分泌もあまり高くないことが影響していることが考察されるとのこと。

 

閉経後の痩せ型糖尿病患者がサルコペニアやダイナぺニアになることが、近年問題となってきている。これを解消していくためには、ただ単にタンパク質の食事を増やすだけではなく、きちんとインスリン補充を行わないと、グルカゴン分泌も上がらない。そうすると、肝臓からの糖放出があまり行われず、筋肉からのアミノ酸を利用した糖新生をしっかり抑制することができなくなる。こういう状態が続くと、きちんと筋肉でアミノ酸をタンパク質に同化させていくことができず、結果的に筋肉量がいつまでたっても増えないということになってしまうことが示唆される。

 

こういうメカニズムをしっかり患者さんにも説明すれば、患者さんも納得してサルコペニア・ダイナぺニア対策も含めて、インスリン治療を行うということに繋がっていくのではないかと考えられる。

 

このため、隆造先生は、「測れるものは、全て正しく測ろう! 測れなければ、測れるようにする!」と仰られていた。上記のことも加味して、よりクオリティの高いスポートロジー研究を行っていこうと考えられているようだ。

 

こういった最先端の基礎研究・臨床研究を聴き、そしてディスカッションしている内容を聴かせていただけることは、本当に貴重である。こういった仲間から、また素晴らしい日本を代表するような研究成果が出てくることであろう。

私自身は、こういったエビデンスを引き続き学ばせてもらい、そして微力ながらも、これらの優秀な研究者の方々の思いを、働く人達に役立ててもらうために伝えていけるように、しっかり頑張っていきたいと思う。