特定保健指導と歯科診療

今月のさんぽ会のテーマは「特定健診・保健指導の10年と医科歯科連携への期待」であった。

産業衛生の中で歯科領域は、ともすれば埋もれがちな分野であるが、実は昨年度から特定健診・保健指導の第3期がスタートし、この第3期の見直しの中で「標準的な質問票」の13番目の質問に歯科口腔保健の項目「かむこと」が追加され、歯と口の健康の情報をキッカケに生活習慣の改善に向けた保健指導の広がりが期待されている。

 

今回は、この噛むことがどうして大切であるかを、ライオン歯科衛生研究所の市橋透さんや日本アイ・ビー・エム健康保険組合の歯科医師である加藤元先生、そして住友商事株式会社の歯科医師の小林 宏明先生からご講演をいただいた。

 

実は、この特定健診の質問票の中に歯科口腔保健の項目が追加されることは、歯科医師会の悲願であったとのこと。苦節10年を経て、やっと項目に加えてもらうことになったそうだ。

ただ、実際に「咀嚼と全身の健康」との関連については、数多くの医学的・歯学的エビデンスがすでに存在する。このため、我々医療職としても、これらのエビデンスをしっかり理解しておくことは大変重要なことであると言える。

 

例えば、歯の本数が減ってしまうと、メタボリックシンドロームにも、認知症にも要介護状態にもなりやすいことが知られている。そして、歯の残存数が少ない人ほど、(歯科医療費ではなく)純粋に医療費が高額になっていることも、兵庫県のデータから示されている。

その対策として、適切に部分義歯などをきちんと作成し、しっかり噛める状態を保持していくことが非常に大切であると、加藤先生からお話しがあった。

 

最近は、元アイドルの堀ちえみさんで舌癌が話題となっているが、実は喫煙による舌癌・口腔癌・咽頭癌

になるリスクは5倍以上とも言われている。また、受動喫煙者でも歯周病になるリスクは57%も高くなることも報告されている

そして、どんな食事をしても、食後は一旦歯のpHは低下してしまうとのこと。これが齲歯になる要因となるわけだが、間食や甘い飲み物を食事以外で摂取してしまうと、その都度pHが低下し、齲歯になる原因になりやすいことを小林先生が話されていた。

 

この様に、思っている以上に歯科的領域は、保健指導を行っていく上でも重要な分野であることがわかる。このため、医科歯科の連携を通じて保健指導の幅が広がり、そうすることによって、より健康的な社員が増えていくことを期待していきたいと思う。