「「司馬遼太郎」で学ぶ日本史」を読んで

実は、司馬遼太郎の大ファンである。

一時期、怒涛のようにあの長編小説たちを読み漁っていた時期がある。当時、本当は英語の医学論文をたくさん読まなくてはいけなかったのだが…。

 

そう言ったことで、「司馬遼太郎」とあると、ついついその本を買ってしまうクセがある。ただ、実際に司馬遼太郎が書いていない文章では、やはり物足りなさを感じることが多いとも思っていた。

今回も、つい衝動買いしてしまったが、読み終わった時にガッカリしないか一抹の不安はあった。

 

 

「「司馬遼太郎」で学ぶ日本史(磯田道史;NHK出版新書)」読み進めてみて、これは面白いと思い、結局一気に読み終えてしまった。

 

この磯田氏の本を僕は初めて読んだのだが、伊達にテレビなどのメディアに出ているわけではないことがよく分かった。司馬遼太郎の本をしっかり読みこなし、そして文面から司馬遼太郎愛も感じられた。

司馬遼太郎という歴史小説の物書きが、どういう人物で、そして戦後の日本人にどの様な影響を与えたかを、上手に解説してくれている。是非、ビギナーの方もこの本を読んで、司馬遼太郎のどの本から読めばよいのか参考にしてもらえればと思う。

 

そして驚きだったのは、磯田氏は、「司馬遼太郎全作品の中で「花神」こそが最高傑作であると思う」と書いている。この「花神」は、「竜馬がゆく」や「翔ぶが如く」といった超人気作品に比べるとマイナー感は否めないからだ。

ただ、実は、僕が司馬遼太郎にハマったのもこの「花神」を読んだのがきっかけだった。

僕の実父は本好きで、若い頃からたくさん色々なジャンルの本を読んでいた。僕が大学院生だった頃、帰省していて実家で何気なく親父と話しをしていた。医者にも色々言うという様な話題になった時に、「幕末、倒幕にあたり、近代的な戦術を考えたり、大砲を載せた船を設計したのは、長州の田舎の百姓医者で、刀も馬も全く扱えないのに、蘭語ができることがきっかけで、本人も思いもかけず、軍人として日本の中で一躍時の人になっていった」という話しをしていた。それが司馬遼太郎の「花神」という小説になっているから、一度読んでみろと言われた。

 

大学院時代、臨床に加え、データ解析や先行文献で英語論文を際限なしに読まざるを得ない様な状況が続いていた。そもそも学生時代はそこそこ小説なども読んでいたが、医者になってから、一般の書籍を読むような時間と余裕は全くなかった。

それが、大学院を卒業し、ちょっとした気の緩みがあった時に、父親との会話を思い出し、ついつい初めて司馬遼太郎の「花神」を買ってしまった。本屋に行くと、思っていた以上に分厚い本で、しかも上中下の3巻であった。

忙しい中、ちょっと気分転換にと思ったが、腰を据えて読まないと読み切れない文量であった。

しかし、読み始めた途端、大村益次郎という人が自分の意に反して世の中心にどんどん取り入られていってしまう思いがけない意外性や、幕末のその時代の日本がどういった状況だったのかを、本当にリアルに感じさせてくれる内容で、僕の本業に差し支える様な勢いで、一気に3巻読破してしまった。

それ以降、かなりの英語論文を読む時間が、司馬遼太郎の小説の時間となっていってしまった…。

 

 

「「司馬遼太郎」で学ぶ日本史」では、司馬遼太郎が何故大村益次郎という人物を題材にして小説を書こうと思ったかという背景などについても、分かりやすく解説してくれている。

今度は、磯田道史氏の他の著作についてもさらに読んでみたいという気になった。