「コーチング心理学概論 第2版」を読んで

「コーチング心理学概論 第2版」(西垣悦代・原口佳典・木内敬太 編著:ナカニシヤ出版2022)を読んだ。2015年に初版が出て、昨年に第2版が出版となった。

 

すでにコーチングというと、何となく一般的に日本の中で共通したイメージや印象があると思われるが、そういったコーチングに対するイメージや印象がガラっと変わるほどのインパクトがある内容ではないだろうか。

まず印象的なのが、最初の章に書かれている「コーチングとコーチング心理学の定義」である。そこには、コーチングとカウンセリングやメンタリングの相違点・共通点について分かりやすく理論的に書かれている。加えて、コーチングの源流のひとつとして、アドラー心理学やマズローで有名な人間性心理学が、少なくとも間接的に初期のコーチングの成立には影響を与えていたといった内容から始まり、コーチング誕生の背景から、コーチングやコーチング心理学の歴史や最近の歩みや発展についても、非常に分かりやすくまとめられている。これを読むと、はじめてこのような経緯や歴史を経て、コーチングが進化・発展してきたのかといったことが理解できる。

 

そしてさらに、日本と欧米における、コーチングに対する解釈の違いについても述べられていて大変興味深い。海外においては、特にシドニー大学やOxford Brookes University・ハーバード大学といった超有名な大学・大学院においてコーチング心理学専攻課程が設置されており、心理学者を含めプロコーチなど、様々な人達が学術的に最先端のコーチング心理学を学んでいることも紹介されている。

一方で、日本においては未だにコーチング心理学専攻課程が設置された大学が存在せず、こうした学術的な教育体制の充実の差が、国内におけるコーチングに対する印象にも差が出ていることも考察されている。ちなみに、韓国でも亜洲大学経営大学院のMBAコース内にコーチング専攻が2014年に開設され、この科目は毎年高い評価を得ているのだそうだ。

 

その他にも、ポジティブ心理学コーチングと言った、個人にも組織・社会に対してもよりポジティブで幸福・ウェルビーイングを高めていくための予防的アプローチが、今後さらに期待されていることにも触れられている。そして、こうしたアプローチ方法の中には、認知行動コーチングや問題解決技法・マインドフルネス技法、解決志向コーチングなどがあることも紹介されている。

 

加えて実は、医療におけるコーチングの応用についても触れられている。この中ではGROWモデルや認知行動コーチング、動機付け面接、ナラティヴ・コーチング、解決志向コーチングなどを紹介している。そして、大変有り難いことに、医療スタッフに対するコーチングというセクションの中に、僕の著書である「コーチングで病院が変わった(Discover21社)」についても参考文献として引用していただいている。

この他にも、畑埜義雄先生、松本一成先生といった日本臨床コーチング研究会の歴代会長の文献も引用されており、我々の活動もこのように評価していただいていることを本当に感謝申し上げたい。

 

日本ではまだまだ商業用としてしかコーチングが捉えられていないところがあるが、このように海外においてはかなりアカデミックな発展もすでに遂げていることを、多くの人に知っていただきたいと思う。そういった意味でも、間違いなく、是非多くの方に読んでいただきたい1冊である。