「POSITIVE DEVIANCE」を読んで

「POSITIVE DEVIANCE 学習する組織に進化する問題解決アプローチ」(Richard Pascale,Jerry Sternin, Monique Sternin著、原田勉 訳、東洋経済新報社 2021)を読んだ。

 

何気なく買った本であるが、「目から鱗が落ちる」とは、こういうことかというくらい、自分の中で必要としていた事柄がたくさん書かれており、近年最も重要でイチ押しの本と出逢ったと言ってよい本である。

 

そもそも皆さんは、devianceと言う単語をご存じだろうか?

大学受験当時から英単語の語彙力が少なくて死ぬほど苦労していた人間としては、お恥ずかしながら全然分かっていなかった。

本文中にも書かれているが、devianceとは「統計的な意味での外れ値」と言う意味だそうだ。このため、「POSITIVE DEVIANCE」となると、ポジティブに逸脱(した人・物)ということになる。

 

このポジティブな逸脱者を、組織内で見つけて、その取り組みを観察し、他の人達にも広めていくといった活動をされている。

非常にインパクトがあったのが、ベトナムの貧困の農村地帯で、子供が栄養失調になっていない家庭を見つけ、その食事を含めた生活習慣を観察したところ、通常は1日2食、芋などのおかゆが中心の食事のところを、食事回数を増やすように工夫し、さらに水田で採れる小さなエビ・カニや青菜も少量食べるようにさせていたとのこと。そうしたちょっとした違いが、子供の成育に大きな影響を及ぼしていた。

そして、こうしたポジティブな逸脱事例が判明すると、次は村中にそれを広めていく。しかしながら、これが実は大変難しく、広めていく中で、コミュニティでの自己発見プロセスを経るように工夫したりする必要があると書かれていた。

 

ここでハッとなった。

僕自身、現在、「医師の働き方改革で成功事例を提示し、皆さん是非、こういった成功事例を基に、あなたの病院でも広めるように頑張ってみてください」と話をしている。

しかし、安易に勧めるだけでは実際にはなかなか上手くいかないことが多い。本当にしっかり広めていくためには、自分の組織で自己発見プロセスを経るような工夫をお膳立てしていく努力も必要であるということが、実例を挙げながら何度も記されている。良いことであっても、押し付けられたと感じれば現場の反発を招いてしまうからだそうだ。

 

同じ成功事例であっても、外部から持ってきたものと、同じような環境・資源で、自分と同じような状況の人達によって実践されてきたプラクティスとでは、それを受け入れて、実践する時の抵抗感はかなり異なってくる。

是非、皆さんも参考にしてもらいたい。

 

そしてさらに、訳者解説の中で、イノベーションや即興対応が要求される現場では、仕事の中身としてPDCAサイクルを回すというのは無理があり、現場でいかにOODA(観察(observe)・情勢判断(orient)・意思決定(decide)・行動(act))ループを高速で回し、学習を促進し、不確実性を削減していくかが大切と書かれている。この現場の自律的学習を促進する点において、OODAループとPDプロセスはオーバーラップする部分が多く、親和性があると言えるとのこと。そして、ともに実際の現場においては、予測することができない事柄が様々あるため、厳格に運用するということはできず、常に臨機応変に対応が求められる。こういったことを職場の多くの人が知っているのと、そうでないのとでは現場対応が全然違ってくる。そういった意味でも「働き方改革」を行うに当たっては、こうしたクオリティの高い内容の研修が必須となってくると考えられる。

これができる組織と、そうでない組織では、明らかに大きな差が生じていくであろう。