インスリン発見100周年

今年は「インスリン発見100周年」。糖尿病関連では、今年、コロナ禍ではあるが、オンラインなども活用しながら様々なイベントなどが開催されている。

さらに、11月14日は「世界糖尿病デー」でもあり、この日に合わせたオンライン・イベントも開催された。

 

実はこの11月14日はインスリンを発見したバンティングとベストの、バンティング先生の誕生日である。

そういった意味では、今月14日は、やはり糖尿病関係者にとって特別な日であった。

 

まだまだインスリン自己注射というと、糖尿病患者さんの圧倒的多数の方は、拒否的な反応を示されるが、一般の方が思っている以上に、インスリン自己注射の改良・改善は進んでいると言える。

 

インスリンの注射針は34G(ゲージ)という、世界最細の針を東京の下町工場が開発し、多くの糖尿病患者さんが使用している。この針は、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症のワクチンで用いられる注射針よりも細く、あまり痛みを感じるといったものではない(もちろん、面倒ではあるが…)。

 

また、インスリン製剤も目覚ましく改良・改善されてきており、食事に合わせた注射は、本当に職直前に注射しても、きちんと薬効が発揮できるようにまでなってきた。

僕が医者になった頃は、食事の30分前での注射が必要であった。皆さん、食事の30分前をどうやったら予測できるでしょうか? 正直、外食であれば、注文してから何分後に食事が出されて来るか等、とても正確に分かるはずがない。そういった不確かな状況でインスリン自己注射を行わなければならなかった。

 

しかも、さらに以前には、ヒトインスリンではなく、ウシやブタのインスリンを使用せざるを得なかったそうだ。残念ながら、構造式がヒトとは若干異なっており、そのために体内では異物とみなされて、年中アレルギー反応で悩まされていた患者さんも多かったとのこと。

 

さらにインスリンが発見されるまでは、根本的な治療が無かったため、1型糖尿病を発症してしまうと、どんどん尿から糖が出て行ってしまい、みるみるうちに痩せ細っていってしまい、その後意識障害で亡くなっていくのを見守るしかなかったらしい。

血糖値の上昇を抑えるためには、炭水化物を完全に排除した食事を与え続けざるを得ず、飢餓療法といった極端な食事療法しか選択肢が無かったとのこと。本当に治療自体が壮絶な戦いであったことが容易に想像できる。

 

 

それが今や、非常に性能がよいインスリン製剤が次々と開発されている。しかも、最近は1日4回うちとは別の選択肢として、インスリンをポンプで皮下に持続的に投与し続ける治療法もデバイスがどんどん改良・改善され、こういった治療法を選択している1型糖尿病患者さんも、若い人を中心に年々増えてきている。

 

 

我々のような糖尿病専門医も、今回のインスリン発見100周年という節目があったからこそ、インスリンがどのように発見されたのかとか、発見後にどのような経過を経て今に至っているのかなど、こういった歴史を辿っていく機会を持つことができた。

 

確かに、インスリン自己注射を毎日行うことは、本当に様々な苦労があると容易に想像できる。しかし一方で、こうやって日々、世界中の研究者や臨床の現場において、多くの人達が熱い思いで改良を重ねたからこそ、ここまで進歩してきたということも、一般の方々に知ってもらう必要があると思う。

 

これからさらに100年後は、糖尿病治療はいったいどのような発展・進化を遂げるのであろうか。インスリンの経口投与が可能となったり、膵β細胞の再生が可能になったりしているのであろうか。はたまた、そもそも太らない・糖尿病にもならないといった薬さえも発見されていたりしているのであろうか…。