“名脇役”グリニド薬の使い方をホンキで考える

先日、順天堂時代に大変お世話になった弘世貴久先生のご講演を久々に聴ける機会があった。

しかも、テーマは「グリニド薬」。僕らにとっては、非常に思い入れのある薬剤であり、これからの薬剤であるとも考えている。

 

弘世先生は現在、東邦大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌学分野の教授をされている。前職は、順天堂大学糖尿病・内科の助教授で、医局長もされておられ、その頃は本当に様々な点において大変お世話になっていた。

そして、順天堂時代には、数々の臨床論文を大学院生に書き上げさせ、「順天堂糖尿病学」と巷で言われるようにもなった、糖尿病臨床の礎を作られた立役者の一人である。

 

「グリニド薬」は糖尿病薬市場では、長年かなり隅に追いやられているような状態の薬である。しかし、この薬は「糖尿病内科医の働き方改革」を行う上では、無くてはならない薬剤だと私は考えている。

 

それは、かつて弘世先生の指導の下、我々が行ってきた臨床研究を基に、「夜間低血糖を起こさない治療臨床現場にて徹底したことにある。

 

「グリニド薬」は、インスリン分泌促進薬であるが、SU薬と異なり、夜間低血糖を起こしにくい。このため、地域の開業医の先生方に、患者さんを逆紹介する時も非常にスムースで、その後も低血糖症で救急搬送などのトラブルが非常に少なくて済む。

しかも、食後高血糖を是正してくれるため、超速攻型インスリン注射からの離脱時に、非常に有用である。

 

これにDPP-Ⅳ阻害薬やα‐グルコシダーゼ阻害薬を併用することで、さらに食後高血糖を抑えることができ、さらに超速攻型インスリン注射の離脱成功率は上昇する。

 

この「グリニド薬」とDPP-Ⅳ阻害薬が食後高血糖の抑制に有効であることを臨床研究で発表したのが、弘世先生を中心とした論文達である(Kudo-Fujimaki K, Hirose T, Sato F,et al; J Diabetes Investig. 2014 Jul;5(4):400-9., TanimotoM et al.; J Diabetes Investig. 2015 Sep;6(5):560-6.)。僕もまだ本院で仕事をしていた頃で、その臨床研究に僕の患者さんにもどんどん参加していただいていた。

 

順天堂大学静岡病院では、医局員4人で、患者さんが夜間低血糖を起こさなくてよいように、徹底的に治療薬の変更を行った。この結果、我々が診療していた患者さんの中で、2型糖尿病患者さんの年間低血糖搬送は、4件まで減少した(片平雄大, 佐藤文彦 他、日本糖尿病学会中部地方会(静岡) 2015)。

 

この様に、2型糖尿病患者さんの治療法も大きく変革し、しかも2型糖尿病患者さんのQOLを上げる治療が可能となってきた。そして今後、女性医師が増える等、今まで以上に医療現場においても「働き方改革」が強く求められる時代になってきている。それを可能にするために、「グリニド薬」は「糖尿病医療における働き方改革の鍵」となる薬剤であると考えられる。

 

久しぶりに弘世先生ともお会いでき、昔話にも花が咲き、楽しい時間を過ごすこともできた。本当に有り難いことである。