夏目漱石と小説➀

日本経済新聞の朝刊に連載されていた「ミチクサ先生」が終わりを迎えた。これは、夏目漱石の自伝小説なのだが、著者は伊集院静氏だ。

伊集院静というと、お洒落な雑誌に格好いい内容のコラムを書いているというイメージがあった。そういった作家が、明治の文豪の伝記ものを書くということが、あまり結びつかず、ピンと来なかった。

 

また、夏目漱石という人物も、僕自身、あまり理解していなかった。小説家、松山や熊本での教師生活、東京帝国大学で教鞭、正岡子規との交流、イギリス留学、修善寺、胃弱。そういったキーワードについては、確かに聞いたことはあったが、どの様な人物であったかはイメージがなかった。あの千円札の髭の写真と胃弱という話から、何となく気難しい人なんだろうなという感じをもっていた。

 

ただ、実際にこの小説を読んでみて、初めて漱石の複雑な生い立ちや、大人になってからは常に自宅に訪問者が絶えないというエピソードなどが描かれており、だいぶ印象が変わった。しかも、伊集院静の小説のタッチが予想外に非常に柔らかく、よりほのぼのとしたイメージを醸し出していた。

 

そして、さりげなくとは言え続々と明治時代の有名人が登場してくる。物理学者の寺田寅彦、ホトトギスの高浜虚子、朝日新聞の池辺三山、作家の芥川龍之介など等、本当に様々な人達と交流があったことが想像される。しかも、これらの人達は年上から年下まで年齢層はかなり幅広く、多くの人が漱石宅を気軽に訪れているようであった。そういったことが驚きでもあり、当時から漱石人気がかなりあったことも伺われる内容であった。

 

そうした社交的な性格と、小説内で描き出されている茶目っ気がある振る舞いがあって、「吾輩は猫である」や「坊ちゃん」といったユーモアセンス抜群な話に仕上がっているのだと気づかされる。

 

実はこの連載小説、一旦途中で連載ストップしている。伊集院静氏が昨年の年明け早々、くも膜下出血で入院したとのこと。このため、中断せざるを得なかったのだ。その間、別の連載小説が急遽スタート。しかし、その後体調が回復し、その連載が終わったところで、見事連載再開となった。

非常に読みやすい、好感度高い連載であっただけに、最後まで辿り着けて本当によかったと思う。