特定健診・保健指導開始から10年

今月のさんぽ会のテーマとして、歯科の他にも「特定健診・保健指導の10年」というテーマもあった。

 

この10年の変遷をレビューする形で、福田洋先生にご講演していただいた。

特定健診・保健指導も、昨年から第3期がスタートしたわけだが、第1期の開始直後は様々な意味で混乱・混沌としていた。特に新しいことが始まった時特有の拒否的な反応が強い中、保健指導がアウトソーシングされたり、その結果を電子化してデータを厚生労働省に納めたりすることに、日本中が混乱していた。しかし、そのビックデータをまとめてみると、日本の現状が浮き彫りになってきて、今後どうしていけばよいかも次第に見えてきたとも言える。そして問題点も分かってきた。

福田先生は、「一定の効果があることが分かった。しかし、受診者はまだまだ少ない状態であった」と総括されていた。

 

第2期になっても結局は保健指導方法が大きく変更されることは無かった。しかし、特定保健指導における効果についてのエビデンスが少しずつ示されるようになってきた。

特に象徴的なデータとして、津下一代先生らがまとめた、積極的支援による6ヵ月間の体重変化率と検査値変化は、その後の保健指導の基礎となるものとなった。これによると、約4%の介入により体重減少があると、HbA1c・TG・HDL・空腹時血糖値といったデータが改善することが分かった。最近では特定保健指導10年分のデータを用いてのメタアナリシスも行われ(人間ドック31:689-97,2017)、糖尿病や高血圧発症抑制に効果が認められていることも分かってきたとのこと。

 

第3期が昨年から開始となったが、再度行動計画の実績評価に重点が置かれている。また、遠隔面接が推進され、これにより様々な業種が保健指導に、より積極的に関わり始めている。

 

リンケージ社の白田保健師によると、遠隔面接ができるようになり、メリットとして、対象である社員も面談を行う医療者も、スケジュール調整が行いやすくなり、また移動時間の大幅な短縮を図れるようになった。しかし、欠点としては、やはり実際に会って面談する時に比べ、どうしてもお互いの意思疎通が図りにくいもどかしさもあるとのこと。今後、遠隔面接の症例が増えていくことによって、その成果の評価としして、どの様な結果が出てくるのか、注目していく必要はあると考えられる。

 

混沌とした状態から始まった第1期を過ぎ、今や特定健診・保健指導を行うことは当たり前としか思われなくなった状態に、この10年で大きく世の中の認識も変わったと思う。ただ、このことにより、特定健診・保健指導が産業保健関連でのセミナー等においても取り上げられることも劇的に減ってしまった。

言わば、マンネリ化した特定健診・保健指導だが、効果も実証されてきており、今後、より高いレベルで保健指導が行えるようにするためには、保健師などの医療者が、今まで以上に糖尿病等の生活習慣病についての知識やエビデンスをしっかり勉強し、それを社員などの対象者にフィードバックしていってもらえたらと感じる。

 

そのためには、糖尿病専門医として、この特定健診・保健指導に大きく関わっていくことが大切なのではないかと、改めて感じたセミナーであった。