産業衛生の現場における知識と本質

先週、伝塾上級生の勉強会にも参加した。
今回は、伝塾医局長で、産業医専門医でもある平野井啓一先生の講義であった。タイトルは「現場における知識と本質」。産業医は、必要な知識を産業衛生の現場に提供することが当然ながら非常に大切である。しかし、実際に職場内で必要とされることは、結局、現場で働く人達がどうすればよいのかとか、何が重要であるのかを、医学的見地も含めながら理解してもらうことであるということを強調されていた。
これは「言うは易く行うは難し」であって、なかなか上手くできないことも多い。

先生の講義の中で非常に象徴的だったのは、
職場内でリスクアセスメントを行う必要性が求められた時に、知識的には、
「リスクアセスメントとは、事業場にある危険性や有害性の特定…の手順をいい、事業者は、その結果に基づいて…を講じる必要があります。労働安全衛生法第28条では…。さらにそれを効果的に進めていくために…」と、説明することができる。
ただし、例えこういったことが完璧に説明できたとしても、現場のスタッフ全員がこの内容を把握できるわけでは必ずしもない。
このため、だからどうすればよいかを、産業医は分かりやすく解説し、説明することが求められる。

平野井先生は、「今まで行ってきた活動内容とリスクアセスメントとは、どの様に違うのか」を具体的に話し、かつ、「社員が作成したリスクアセスメントについて、ねぎらいの言葉をかけて承認し、その上で、アドバイスを行っていく」ように気をつけていると言われていた。しかも、そのアドバイスも「誰が、いつまでに、どの様に」行っていくのか、詳細をできるだけ明確にしてもらいながら作業を進めていってもらうといった、コーチング等のコミュニケーション手法をふんだんに取り入れながら、社員の方々にアサーティブに伝えていきましょうと仰っていた。

実は、産業医の専門医試験では、非常にコミュニケーション能力があるかを必ず問われるとのこと。特に口頭試問では、産業衛生関連のお題を与えられ、それをきちんと社員にプレゼンテーションできるかといったことが強く求められる。他分野の専門医試験で、この様にコミュニケーション能力について問われることは極めて珍しい。ただ、実社会で一般社員と医師が関わっていく中では、どうしても必要な要素になっている。
そういった意味で、伝塾医局長は「流石!」の産業医専門医であるということを、この講義で改めて伝塾生みんなが感じた、素晴らしいプレゼンテーションだった。