遠き山に日は落ちて

遠き山に日は落ちて、星は空を ちりばめぬ….

 

この歌詞をご存じだろうか?

この歌を、カブスカウト・ボーイスカウト時代を通じて、キャンプファイヤーの時は、最後に必ずみんなで歌っていた。

キャンプの大変だったことや、ホームシック、そしてもう少しで家に帰れるといったことや、それなりにキャンプ中に楽しかったことを思って、篝火を見ながら静かな気持ちで歌っていたことを思い出す。

 

これは、ネットで調べてみると、

「『遠き山に日は落ちて(家路)』は、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第2楽章のメロディに基づき、作詞家・堀内敬三が日本語の歌詞をつけた楽曲。他にも歌詞があるそうだが、この歌詞が、圧倒的に知名度が高いとのこと。

 

 

実は先週末に、全日本医家管弦楽団第29回定期演奏会が開催された。

そして、そのメイン曲が「新世界より」だった。

 

さらに、オケ関係者はよく知っている通り、この曲ではチューバは8小節しか吹くところがない。

しかも、2楽章の冒頭と、最後に4小節ずつのコラールとなっている。

このため、全く音出しが出来ないまま、いきなりコラールを演奏することになる。

 

ブラバン上がりの僕としては、楽器を吹く時は必ず充分に音出しをしてから曲の練習をするということが常識であったし、ずっと長年そうしてきた。

しかしこの曲は、そう言った「定石」を完全に打ち砕くシチュエーションで、しかもピアニッシモ「pp」のコラールを要求するという、僕ら素人としては、ある意味最も難しいことを要求されている。

 

大学生の時に演奏した時は、高校時代の恐ろしいほどの基本練習していた「貯金」がまだあったので、何とか対応できていたが、今では全くそうはいかない。

正直、本番直前まで、どうやって吹けばよいかのイメージすら頭の中でできていなかった。

本番前日のゲネプロでも、全く上手く吹けず、このコラール部分を再度吹き直した時に、お恥ずかしながら、久々に頭が真っ白になってしまった。自分の気持ち的には「万事休す」といった感であった。

 

そのリハーサルの帰り、途方に暮れた状態で、どうすればこのコラールを吹くイメージを得ることができるか、ため息を何回もつきながらずっと考えていた。

 

そのヒントの1つは、指揮者の曽我大介先生が、以前の練習の時にこっそり教えてくれていた。

それは、1楽章の最後はTuba以外はみんな出番があり、盛り上がって終わるのだが、この時に「楽器を構えるふりをして、ちょっとだけバストロンボーンの譜面を吹いてもいいよ」と言ってくれていたのだ。

これは、Tuba吹きにとっては大変有り難い助言で、1音だけでも「音出し」ができると、2楽章の最初の音が相当吹きやすくなる。

 

そして、さらに難関なのは2楽章の終わり。ここはコールアングレからヴァイオリンに続く、きれいで静かなメロディーラインの後を引き継いで、管楽器のコラールに入る。

この時も楽器は完全に冷えきってしまっている。1音も音出しできず、しかも僕が日頃から苦手としている「上のD」。

 

この音を出すためのイメージを、本番前夜になっても見いだせなかったのだが、ふっと家に帰った時に、前述の「遠き山に日は落ちて」の歌詞を思い出した。

 

そもそも、上手く「上のD」の音が出せない原因として、楽器が冷えていることもあるのだが、上手く吹けないために過度にかなり緊張してしまい、ますます口が固まってしまっていると感じた。

このため、緊張をほぐすために、コールアングレのソロの時に、声には出さずに「口パク」でこの歌詞を一緒に歌ってしまおうと思った。

 

実際、本番でも「口パク」しながら心の中で一緒に歌った。その甲斐あってか、音が出ないという、最悪のシチュエーションは何とか免れることができた。

 

お陰様で、「今日の業(わざ)を なし終えて 心軽く 安らえば」という気持ちに何とかなることができ、「いざや 楽し まどいせん」と、打ち上げも2次会まで参加することができた。

ただ、正直なところ、もう新世界はご勘弁願いたいなと思っている…。