4月 2019

今月のさんぽ会のテーマとして、歯科の他にも「特定健診・保健指導の10年」というテーマもあった。

 

この10年の変遷をレビューする形で、福田洋先生にご講演していただいた。

特定健診・保健指導も、昨年から第3期がスタートしたわけだが、第1期の開始直後は様々な意味で混乱・混沌としていた。特に新しいことが始まった時特有の拒否的な反応が強い中、保健指導がアウトソーシングされたり、その結果を電子化してデータを厚生労働省に納めたりすることに、日本中が混乱していた。しかし、そのビックデータをまとめてみると、日本の現状が浮き彫りになってきて、今後どうしていけばよいかも次第に見えてきたとも言える。そして問題点も分かってきた。

福田先生は、「一定の効果があることが分かった。しかし、受診者はまだまだ少ない状態であった」と総括されていた。

 

第2期になっても結局は保健指導方法が大きく変更されることは無かった。しかし、特定保健指導における効果についてのエビデンスが少しずつ示されるようになってきた。

特に象徴的なデータとして、津下一代先生らがまとめた、積極的支援による6ヵ月間の体重変化率と検査値変化は、その後の保健指導の基礎となるものとなった。これによると、約4%の介入により体重減少があると、HbA1c・TG・HDL・空腹時血糖値といったデータが改善することが分かった。最近では特定保健指導10年分のデータを用いてのメタアナリシスも行われ(人間ドック31:689-97,2017)、糖尿病や高血圧発症抑制に効果が認められていることも分かってきたとのこと。

 

第3期が昨年から開始となったが、再度行動計画の実績評価に重点が置かれている。また、遠隔面接が推進され、これにより様々な業種が保健指導に、より積極的に関わり始めている。

 

リンケージ社の白田保健師によると、遠隔面接ができるようになり、メリットとして、対象である社員も面談を行う医療者も、スケジュール調整が行いやすくなり、また移動時間の大幅な短縮を図れるようになった。しかし、欠点としては、やはり実際に会って面談する時に比べ、どうしてもお互いの意思疎通が図りにくいもどかしさもあるとのこと。今後、遠隔面接の症例が増えていくことによって、その成果の評価としして、どの様な結果が出てくるのか、注目していく必要はあると考えられる。

 

混沌とした状態から始まった第1期を過ぎ、今や特定健診・保健指導を行うことは当たり前としか思われなくなった状態に、この10年で大きく世の中の認識も変わったと思う。ただ、このことにより、特定健診・保健指導が産業保健関連でのセミナー等においても取り上げられることも劇的に減ってしまった。

言わば、マンネリ化した特定健診・保健指導だが、効果も実証されてきており、今後、より高いレベルで保健指導が行えるようにするためには、保健師などの医療者が、今まで以上に糖尿病等の生活習慣病についての知識やエビデンスをしっかり勉強し、それを社員などの対象者にフィードバックしていってもらえたらと感じる。

 

そのためには、糖尿病専門医として、この特定健診・保健指導に大きく関わっていくことが大切なのではないかと、改めて感じたセミナーであった。

今月のさんぽ会のテーマは「特定健診・保健指導の10年と医科歯科連携への期待」であった。

産業衛生の中で歯科領域は、ともすれば埋もれがちな分野であるが、実は昨年度から特定健診・保健指導の第3期がスタートし、この第3期の見直しの中で「標準的な質問票」の13番目の質問に歯科口腔保健の項目「かむこと」が追加され、歯と口の健康の情報をキッカケに生活習慣の改善に向けた保健指導の広がりが期待されている。

 

今回は、この噛むことがどうして大切であるかを、ライオン歯科衛生研究所の市橋透さんや日本アイ・ビー・エム健康保険組合の歯科医師である加藤元先生、そして住友商事株式会社の歯科医師の小林 宏明先生からご講演をいただいた。

 

実は、この特定健診の質問票の中に歯科口腔保健の項目が追加されることは、歯科医師会の悲願であったとのこと。苦節10年を経て、やっと項目に加えてもらうことになったそうだ。

ただ、実際に「咀嚼と全身の健康」との関連については、数多くの医学的・歯学的エビデンスがすでに存在する。このため、我々医療職としても、これらのエビデンスをしっかり理解しておくことは大変重要なことであると言える。

 

例えば、歯の本数が減ってしまうと、メタボリックシンドロームにも、認知症にも要介護状態にもなりやすいことが知られている。そして、歯の残存数が少ない人ほど、(歯科医療費ではなく)純粋に医療費が高額になっていることも、兵庫県のデータから示されている。

その対策として、適切に部分義歯などをきちんと作成し、しっかり噛める状態を保持していくことが非常に大切であると、加藤先生からお話しがあった。

 

最近は、元アイドルの堀ちえみさんで舌癌が話題となっているが、実は喫煙による舌癌・口腔癌・咽頭癌

になるリスクは5倍以上とも言われている。また、受動喫煙者でも歯周病になるリスクは57%も高くなることも報告されている

そして、どんな食事をしても、食後は一旦歯のpHは低下してしまうとのこと。これが齲歯になる要因となるわけだが、間食や甘い飲み物を食事以外で摂取してしまうと、その都度pHが低下し、齲歯になる原因になりやすいことを小林先生が話されていた。

 

この様に、思っている以上に歯科的領域は、保健指導を行っていく上でも重要な分野であることがわかる。このため、医科歯科の連携を通じて保健指導の幅が広がり、そうすることによって、より健康的な社員が増えていくことを期待していきたいと思う。

先日、外来で必要な英語表現というセミナーがあり、参加してきた。

建設中のオリンピックスタジアムに程近い、千駄ヶ谷クリニックの篠塚規先生がご講演をされていた。

 

 

僕自身は英語がとにかく苦手で、大学病院時代も専属産業医時代も、英語に関しては苦い思い出ばかりである。

ただ、空前の人手不足や観光立国になってきている日本では、僕が好むと好まざるに関わらず、どんどん外国の方が日本にやって来ている。

このため、外来診療においても否応なく外国人の方を診察する機会は増えることはあれ、今後減ることは無いであろう。

 

正直、英語ができない人間にとって、外国人の患者さんの診察は難儀することも多い。なので、通訳してくれる方が一緒に来られている時は本当に助かる。ただ、それでも本当はなるべく直接会話しコミュニケーションが取れたらなとは、もちろん思う。

 

 

今回のセミナーでは、医者だけでなく看護師や医療事務のスタッフも一緒に聴きに来ている講演会のスタイルであった。

実際、外国人が医療機関に受診した場合、苦労しているのは医者だけでなく、もちろん看護師や医療事務のスタッフも同様に大変な苦労があると思う。特に支払いに関して等は、日本の医療制度は独特なので、やはりトラブルになることも少なくない。

 

今回、篠塚先生はこれらの支払い方法等についても、色々とアドバイスされていた。

当然クレジットカード決済が対応できることは必須であることや、保険診療で治療するのか全くの自費診療なのかで、各種薬剤の投薬量を日本の保険診療許容内に抑えるか否かの判断をせざるを得ない状況であるというお話しも、非常にリアリティがあり参考になった。

 

意外であったのは、千駄ヶ谷クリニックの中で、医者を含め、医療スタッフが話している英会話の内容をチェックしてみたところ、実際に頻用しているある特定の文章のほとんどが、英文法的には中学英語程度とのこと。そこで、最も頻用している文章例7つを覚えておくだけで、かなり外国人対応がスムーズになるとのこと。その7文章の多くは疑問文であったが、残念ながらここではご紹介できない。ただ、確かにこれらを、まずしっかり覚えておくことは、我々にとって非常に有用だと、非常に納得した。

ひとつだけ紹介させていただくと、最も印象的であったのは、What is your problem today? というフレーズであった。

こんな簡単なフレーズも、英語に馴染みがない人間からすると、全く口から出てこないものである。

実際には、そもそも我々にとっては、これらの疑問文の返答が返ってきた後が最も問題かも知れないが…。

 

さらに印象的だったことは、篠塚先生は本当に多彩な国籍の外国人を診察されているとのことであったが、基本、英語対応のみにされているとのこと。多言語対応するとなると、これだけ流暢に英語対応しているクリニックでさえ、収拾がつかなくなるらしい。

ただ、地域柄、ブラジル人が多いとか、中国人・ネパール人が多いなどの特殊な事情がある場合は、その特殊事情に対応せざるを得ないようだ。

 

できれば避けて通りたいのが、外国人対応であるが、観光や仕事に来てくれているお蔭で日本の経済も上手くいっていることは今や否定できない。英語について、結局何歳になっても勉強しなくてはならないなと、悲しいが改めて認めざるを得ない気持ちになった。

今月の伝塾の勉強会では、実はHbA1c値と就業制限についても話題に上がった。

 

私も産業医になるまでは正直知らなかったのだが、日本の特に大手企業では、健康診断の結果等でHbA1c値が高い場合、残業禁止や就業制限シフト勤務禁止などの就業制限をかける会社が非常に多い。

その理由として、会社側には安全配慮義務があり、著しい高血糖がある社員をそのまま放置することはできないとの考え方がある。

 

中には、HbA1c値が12%以上などと極めて高血糖を認める場合、その社員に休職等してもらい、糖尿病教育入院なども積極的に行ってもらい、しっかりと血糖コントロールができるようにしている企業も珍しくない。

 

私自身、名刺交換時などの自己紹介の場面で、糖尿病専門医かつ産業医ですとご挨拶させていただくと、相手が産業医の先生であった場合、「あなたの会社ではHbA1c値が何%なら就業制限をかけてられますか?」と必ずと言ってよい程質問される。

それくらい、各企業では「HbA1c値が何%であれば就業制限をかける必要があるのか」非常に気になっていることの裏返しであると言えるのではないだろうか。

 

一方、日本糖尿病学会では私も含めて、まさか各個人のHbA1cの値によって、残業禁止や就業制限シフト勤務禁止などの就業制限がかけられているとは、世の中のどの糖尿病専門医も想像すらしていないというのが、現状ではないだろうか。

 

ただ、私も産業医になってみて分かってきたことだが、企業としては、特に製造工場勤務者や高所作業者、重労働者、一人職場での勤務者など、確かに著しい高血糖があった場合、業務中にトラブルが起こる可能性を考慮する必要がある。そういった意味では、血糖コントロール不良な糖尿病を持つ社員に就業制限をかけることは、やむを得ないと考えられることも多いと思う。

 

こういったことを日本糖尿病学会の先生方にも広く知ってもらい、今後「HbA1c値が何%であれば就業制限をかける必要があるのか」について、日本産業衛生学会の先生方とディスカッションしていける場を設けていくことを、「令和」の時代にはいよいよ真剣に考えていく必要性が高まってきていると言えるのではないだろうか。

 

今月の伝塾の勉強会では、「作業環境管理」について、株式会社みずほ産業医事務所代表取締役の鈴木瑞穂先生からレクチャーをしていただいた。

 

鈴木先生は、短大卒業後に一般大学へ編入。その後医学部に入り直し、医者になられたという、まさに紆余曲折の人生を経て来られた女性ドクターである。こういった異色の経歴を持った方の多くは、ほぼ間違いなくお話しが分かりやすい。鈴木先生の講義も非常に分かりやすかった。しかも講義テーマについても、今後しっかり産業医業務を勉強していかなければならないと思っている私にとって、「渡りに船」の講義内容であった。

 

今回、鈴木先生は産業医経験の少ない医者でも理解しやすい様に、大学の病理教室を例に挙げて、「作業環境管理」について説明されていた。

病理標本を作製する際に、どうしても使用するのがホルマリンである。ホルマリンは医学部生であればみんな知っている薬品でもある。それは、医学部のカリキュラムで有名な「解剖実習」においてホルマリンが用いられているからである。実習中、僕もとにかく目が痛くて難儀をしたことを覚えている。

 

ただ、この目が痛いといった有害事象を、本来は労働者が極力感じないようにする必要がある。

そのため、事業者側は「作業環境管理」をしっかり行って、労働者の身体に悪影響を与えないように、職場の環境を良好な状態に維持・管理するようにしなくてはならない。

 

そもそも労働衛生対策の本質とは、就業に関連した労働災害や健康障害を防ぎ、事業者として労働者に対する安全配慮義務を遂行することにある。この基本となるのが「労働衛生の3管理」と呼ばれるものであり、作業環境管理、作業管理及び健康管理の3つを指す。これに総括管理と労働衛生教育を加え、5管理とすることもある。

その一環として労働安全衛生法(粉じん障害防止規則・有機溶剤中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則・鉛中毒予防規則・石綿障害予防規則・電離放射線障害防止規則)に定められているように、騒音・放射性物質・化学物質(有機溶剤・特定化学物質・有害金属類)・粉じんなどの管理・リスク評価・リスク低減を行っていく、一環の作業を作業環境管理という。各物質には、管理濃度が定められている。

 

そして、その測定方法を知ることや、その測定機械の使い方について等、覚えていかなくてはならないことがたくさんある…。

なかなか一筋縄ではいかないが、今回の講義等も活用しながら、何とか少しずつしっかり勉強していきたいと思う。

 

 

先週末、産業医アドバンスト研修会設立記念シンポジウムがあったので、参加させていただいた。

午前中仕事があり、途中からしか参加できなかったのだが、大変勉強になった。

 

私も参加させていただいている「伝塾」塾長で、産業医科大学産業衛生教授の浜口伝博先生が中心となり、この夏から「産業医アドバンスト研修会」という会を発足されるとのこと。

この会は、e-learningなど、様々な取り組みを入れていきながら、まだまだ経験の浅い産業医のスキルアップを図るために企画された研修会とのことである。

 

このシンポジウムにて、浜口先生は、「今月から改正となった新安衛法では、産業医の独立性・中立性が強調され、新しい枠組みでの産業医活動が期待されている。これに伴い、産業医の職務は確実に増加し、責任も重くなってくることが予想される。今後、「令和」時代の産業医とは、どうあるべきかを考える必要が出てきている」とお話しされていた。

また、僕が最も印象的だったことは、「産業医は、社員の健康を保持させることも当然行っていくのであるが、大事なことはこの「健康」な状態を保たせることによって、会社・組織の中で何を成就させるかとういう観点を持つことが大切だ」とも仰っていた。

仕事に取り組む姿勢として、医療機関で働く医師と産業医では、この点が決定的に異なっているということが、僕自身も、最近やっと分かってきた気がする。

 

また、リクルートワークス研究所所長の大久保幸夫氏は、「単身赴任」自体が、今後違法になっていく可能性も示唆されていた。本人やその家族が望まない形での勤務・人事というものそのものが、大きく見直される時代になってきているのかもしれない。

僕自身、4年間伊豆半島に単身赴任をし、家族にも少なからず迷惑・負担をかけた。そして、精神的にもかなりキツイ思いもした。やはり、こういった人事は安易に行うべきではないのではと、当時常々感じてもいた。

しかも、最近は「単身赴任」者が最も多い時代であるとのこと。これは共働き世帯が増えてきたため、妻は今の仕事があり、子供はすでに学校や幼稚園に通ってしまっている。従って、夫だけしか新しい赴任先に行けないという状態になってしまう家庭が、急増しているということだそうだ。

 

鳥飼総合法律事務所弁護士の小島健一先生のお話しも大変興味深かった。

小島先生とは、普段からさんぽ会幹事として、一緒にお話しする機会が増えてきているのであるが、この様なまとまったご講演をきちんとお聴きしたことはなかった。

小島先生は、人事・労務関連のエキスパート弁護士で、昨今急増している社内弁護士の先駆けでお仕事をされてきている方だ。私も前職の時は、良い悪いは別として、社内弁護士の先生には非常にお世話になったり、各々の事例についてそれぞれどの様に法律的に考えるべきか教わったりする機会があった。

 

小島先生は、これから世の中で産業医の権限が大きくなることが期待されてきているということは、責任も重くなっていくということも、しっかり認識されるようにと、強調されていた。

やはり、法律家にその様にきっぱりと言われると、私も含め、場内の産業医の先生方の緊張感も一気に増した雰囲気となった。

今後も、小島先生にはさんぽ会やこの研究会等を通じて、色々と教えていただきたいと思う。

 

そして、参加されていた産業医の先生方も、様々な方面で活躍されている先生方が多くおられた。

そういった意味でも、この様な研究会を企画していただくことで、本当に多くのことを学んでいくことができると感じる。

まだまだ勉強・経験不足のところが極めて多いので、しっかり参加して、どんどん新しいことを学んでいきたいと思う。

少し前の話しだが、昨年末に、僕も利用させていただいているシェアオフィスの簡易的な忘年会があった。

普段シェアオフィスとして使用しているフロアに、フリードリンクとケータリングの食事が少し置いてあり、人数も数十名おられ、それなりに賑やかな状態だった。

 

その時に、各自是非名刺交換もされて下さいとのことだったが、私としては、全く知らない人といきなり名刺交換することはかなり億劫な状況であったため、少しだけ飲み物やお食事をいただいて、そそくさと帰ろうかとも思っていた。すると、ちょうどその時にふっと目が合った男性が、いかにも声をかけやすそうな人だった。このため、思わず名刺交換をさせてもらった。

 

この男性は外資系企業の営業マンとのこと。ただ、少し話をしているうちに、私の名刺にメディカルコーチングと書いてあることに気がつかれた。すると、「実は私、前職はコーチAでプロフェッショナルコーチをしていたんですよ」とのこと。

 

そこで、あの話しかけやすさを醸し出していたのは、コーチングをずっとやってこられてきたからこそなのだと、非常に合点がいく思いをした。

やはり、普段から話しを聴く姿勢を持っている人は、たとえ大勢の中にいても、雰囲気だけでも話しかけやすさが伝わってくるのだなと、改めて感心した。

 

翻って考えてみると、世の中の患者さん達も、初めて医療機関を受診される時、どんな先生が担当なのだろうと、初診時はかなり不安なのであろうなと改めて思う。

その初診時に、非常に話しかけやすい雰囲気を持ったドクターであれば、どれほど安心するだろうとも思う。

そういった意味でも、常に傾聴する姿勢を心がけておくということの大切さを痛感した一場面だった。

昨日、新しい年号の発表がありましたが、皆様の感想は如何でしょうか?

僕は「令和」という年号は、馴染んでくればカッコイイ名前に感じるようになるのではないかと思います。

 

ところで、前回年号が変わった時、皆さんは何をされていたでしょうか?

私は高校3年生の冬でした。通常であれば大学受験直前という時期。しかし、当時の私は…。

 

 

その日、超満員のお客さんが来ていただいた吹奏楽部の定期演奏会が終わり、京都会館を撤収し、同級生で深夜のマクドナルドで簡単な打ち上げをし、クタクタになって家に辿り着き、翌朝演奏会後の部室の片付けのために何とかゴソゴソと起きてきたところ、テレビではすべてのチャンネルで「昭和天皇ご崩御」のニュースを流していた。そんなシチュエーションであった。

 

実はこのため、我々の定期演奏会自体が実際に開催できるか否か、直前まで全く見通せなかった。もし万が一、昭和天皇がご崩御された場合は、演奏会中止もやむを得なかった。

 

例年であれば、お正月の時期なので、演奏会の中に「新年明けましておめでとうございます」といった、お正月に相応しいパフォーマンスを随所に入れている。しかしこの年だけは、全ての「あけおめ!」のパフォーマンスを当日変更できるようにあらかじめ念頭に置いて準備をしていた。

そういった意味では、間一髪間に合って、高校生活最後の定期演奏会を、無事明るい演出で、昭和64年という時代に終えることができた。

 

実は当時、我々吹奏楽部の定期演奏会のチケットは即日完売状態で、2千人入る大ホールなのだが、立ち見のお客様が相当数出てしまい、京都会館側から消防法違反になるから、何とかするようにと毎年厳しく注意されていた。

この後、1回だけの公演ではとても収拾がつかないため、昼夜の1日2回公演に変更することとなった。

 

実は、全国大会常連校の吹奏楽部の定期演奏会では、複数回公演は珍しくない。

今回の春の選抜高校野球大会で大変注目されている千葉県・習志野高校では、以前そのブラバンOBと話しをしていた時に、2日間で3~4回公演していると言っていたので、驚いたことがある。

あの「美爆音」をホールの中で、マーチングなどのパフォーマンスで聴くと、否応なく会場内全体のテンションは上がっていく。それをまた聴きたいという人で、どんどん毎年来場者数が増えていくという要因となっていく。

そう言った意味で、是非一度、吹奏楽部の定期演奏会を聴きに行かれることをお勧めしたい。甲子園のアルプススタンドの熱気を感じることができると思う。

 

僕らも男子校だったので、「美爆音」は得意中の得意であった。私自身、そういった熱狂的な盛り上がりの中で演奏できた、あの時の定期演奏会は本当に忘れられない貴重な思い出である。

 

実際にはその後、もちろん受験に失敗し、泥沼の3浪生活に突入していくことになる。

そして、浪人生時代は、もう二度と楽器はやらないと心に誓っていた。当時は、音楽で自分の人生をだいぶ狂わせられたという思いも、大きく持っていた。

 

しかし、あれから30年も経ち、今回の「改元」にあたり、あの時に「通常の受験生ではできない体験を少なからず積んできた」からこそ、今も人とは違う働き方でやってみようと思えているところがある。

 

そして、観客の方々が喜んでもらえるような演奏をするということと、組織の中でスタッフみんなが充実して働けるマネージメント作りをするということが、僕には同じに思える。

それを自分の仕事の中で体現でき、そして多くの働く人達が充実した働き方ができるように、「令和」の時代、より一層頑張っていきたいと思う。