「最高のコーチは、教えない」を読んで

「最高のコーチは、教えない」(吉井理人 著:ディスカバー21 2018)を読んだ。実は、この本もコーチエィ社の方からいただいた本だ。

すでに5年前に出版された本なのであるが、今年、開幕前の下馬評を覆して上位争いを行っている千葉ロッテマリーンズ監督の著書である。まさにこの今年のロッテ活躍の要因について、吉井監督の存在を挙げる人は多い。これを読めば、なぜ今年のロッテが強いのか、そして、侍ジャパンで投手陣があれだけ大活躍していくことができたのかが頷ける。

そもそも、今まで日本代表チームに、プロ野球チームの現役監督がコーチとして入閣したこと等あったであろうか? その通常では考えられない、前例のない非常に大切な役職を兼務しても、さりげなく、両方においてしっかりと結果を出すことができるという背景には、やはりこういった確固とした指導方法をきちんと学び、すでに自分のものとして確立できている人物だからこその為せる業なのだと思う。そして、今回の常識破りの人事を行っても、間違いなく日本代表チームの投手コーチとしてやってくれるだろうという、周囲の期待があったからこそ、特に批判的な声も聞かれることも無く、迎え入れられたのではないかと想像する。

 

そして、まさにそういったことが実現できた、その理由がこの本を読むとたくさん書かれていると思う。

まずは、そもそもこの本の内容は非常に明快で、明解である。なので、これまであまりコーチングというものに接することが無かった人にも、大変読みやすく書かれている。というか、特に野球の話がある程度わかる人にとっては、コーチングの入門書として、まず最初に手に取るべき本であると言えるのではないだろうか。

 

ちょっと内容を深堀してみると、いわゆる、昭和の伝統的なリーダーシップではなく、サーバントリーダーシップの手法を取りながら、選手本人に常に考えてもらい、スキルアップを促す。ダルビッシュ投手も栗山監督もそうであったように、侍ジャパンのチーム作りは、本当にジョブ型の、一人一人が責任を持って行動し、それを常にコミュニケーションを取りながらまとめ上げたリーダー達がいた働き場であったことがよく分かる。

ここ1~2年。スポーツ界において、伝統的リーダーシップのチームが惨敗し、ことごとく活躍しているチームは見事にサーバントリーダーシップ型のチームになってきている。

 

そのサーバントリーダーシップの基礎の1つとなっているのが「コーチング」の技法である。プロ野球界においても、まだ高卒などの若手選手を、如何に一軍で定着させて、そしてメージャーリーグでも活躍するような大選手にまで育て上げていくのかというノウハウが、非常に分かりやすく、そして経験談を持って語られている。

なぜティーチングだけではよくないのか。そして、コーチングだけでも上手くいかず、その使い分け方を、SL理論を用いて、非常に明快に示されてもいる。さらに、実際の現場においてもそうやって指導されていたことが、随所にリアリティを持って示されている。

 

これは、同じプロフェッショナルを育てていくといった意味において、非常に医師・看護師の育成とオーバーラップするところがある。今、「医師の働き方改革」で、組織運営に悩まれている医療関係者・経営者、そして運動部系の指導者の方々にも、最もお薦めの一冊だと感じる。

先日、書店に行ったら、店から入ったすぐのところに、すでに5年前に出版された本であるにもかかわらず、その店の推薦書としても平置きされていた。それくらい、話題の新書に全く負けないくらい古さを全然感じさせない本なのだと思う。

コーチングがまだよく分からないといった人には、まずこの本を手に取ってもらいたいと思う。