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「社会は変えられる――世界が憧れる日本へ」(江崎禎英 著;国書刊行会)を読んだ。著者の肩書きは、以下の通りである。

岐阜県出身で平成元年に東京大学教養学部を卒業後、通商産業省に入省。日米通商問題に携わった後、大蔵省に出向し金融制度改革を担当。その後通商産業省にて資本市場改革、外為法改正に取組む。英国留学、EU(欧州委員会)勤務を経て、通商産業省に戻りIT政策を担当。この間、内閣官房にて個人情報保護法の立案に携わる。さらに、経済産業省にて、ものづくり政策、外国人労働者問題を担当し、平成17年から地球温暖化問題を担当。平成24年から生物化学産業課長として再生医療を巡る法制度の改革に携わったのち、ヘルスケア産業課長を経て、平成29年に商務・サービスグループ政策統括調整官及び内閣官房健康・医療戦略室次長に就任。平成30年から厚生労働省医政局統括調整官に併任。

 

こう書かれても、全くピンと来ないと思う。ただ、この本を読むと、これらの難題を縦割り行政の中、取り崩していき、実現化していったかということが、大変よく分かる内容になっている。こんな無謀な、そして意志を貫ける官僚が、現実にいるのかと疑ってしまうぐらいの迫力を感じ、圧倒される。

 

本文中に、「今でも時々、「どうしてあのような改革が実現できたのか」と尋ねられることも多いのですが、何か特別な方法があったわけではありません。ただ、それらに共通していることは、誰かがやらなければならない課題だと確信したことです。時には「越権行為」と非難され、もうダメだと諦めかけたことも多々ありました。それでもその課題を知ってしまった以上、何とかできないかと模索しているうちに、結果的に制度改革に辿り着いただけなのです。」「どの事例も周りからは「絶対に無理」と言われ、関係者からは口を出すことさえ迷惑がられたものばかりです。ただ、思い切って取り組んでみると、必ず応援してくれる人が現れました。万策尽きてもうダメかと思う度に、思いがけない所から救いの手が差し伸べられました。どの事例も最初から多くの賛同者がいたわけではありません。」

こんな文章を、自らの体験を基に書ける人が、今の時代にいるとは、正直思わなかった。しかもそれが、あまり無理をしないイメージが付きまとう国家公務員官僚であるとは…。ちょっと俄かには信じがたいと思ってしまう程である。

是非皆さんに、詳しくはこの本を手に取って一読してもらいたいと思う。

 

そして著者は、これからの時代、「医療の役割は「治す」から「導く」へ」とも述べている。

「社会環境が変わり人々の健康を維持する「予防」や「管理」への取り組みが基本になっても、医者の重要性は変わりません。一方で、いかなる時も「治す」だけを目指す医療は限界です。「治せない」のに治す努力を強いられる医療関係者も、治らないのに治ることを願って奔走する患者やその家族も共に不幸です。老化や生活習慣に起因する多くの疾患は薬や手術では「治せない」という現実を真摯に受け止め、医療の主たる目的を「予防」や「管理」へと移す時が来ています。」と語っている。これは、正に僕自身がやりたいと思っている医者の在り方と一致している。こういったスーパー官僚の方がこの様な国家ビジョンを持っておられるということは、本当に心強い限りである。

 

実は先月、ある私的な会で、思いがけず江崎さんと一緒に講演をさせていただく機会を得た。この本もその時に、直接ご紹介があり、直筆サインまでいただいた。

また、講演会で準備していたパソコンと江崎さんがご用意されていたスライドとの相性が上手くいかず、急遽私のパソコンを使用されることになった。講演終了後に、予防医学関連のスライドが非常にインパクトがあったので、厚かましいとは重々承知の上で、思い切って「あのスライド1枚、いただけないでしょうか?」とお願いをしてみた。すると、「どうぞ是非お使いください。」と仰って下さった。今後、「提供:江崎禎英氏」と書き加えて、講演会等で大事に使わせていただきたいと考えている。

 

通常であれば、「社会は変えられる――世界が憧れる日本へ」といったタイトルをつけてみたところで、実際には見かけ倒しのような内容であることが多い気がする。ただ、江崎氏の凄まじい行動力とそれに伴った大きな成果を知ってしまうと、不思議と、これからの日本もよい方向に向かっていってくれるのではないかと、明るい希望を持てるような気がしてくる。