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4年前の本だが、「規制の虜―グループシンクが日本を滅ぼす」(黒川清著;講談社)を読んでみた。

 

率直に、予想以上にクオリティの高い内容で驚いた。正直読む前は、医者が原子力発電のことを書いて、きちんと理解しているのか等といった懸念があった。しかし、ある意味、専門家やマスコミでの報道よりも論理的かつ科学的に、我々日本人が、今後どの様にこの原発事故について向き合っていけばよいかといったことを、前向きに考えさせてくれる内容であった。

 

ただ、医者であれば誰でもこの様な内容の本が書けるかと言えば、それはもちろん全く容易いものではない。これは、そもそも黒川先生が日本を代表する医学博士であり、かつ素晴らしくグローバルな視野の広さをもっておられたからこそ、成し得た業なのであろう。

 

まず、著者は2011年の東日本大震災における原発事故発生当時、報道がされ始めた直後から、海外のメディアや有識者のコメントなどを拾い集めていかれた。すると、日本の中で報道されている情報とは異なる報道や、日本が直ちに取るべき対策などが、海外の情報をチェックすることによって、明確になってきたとのこと。

そして、このままでは日本が世界から信用を失ってしまう可能性も十分に考えられるため、政府から独立した国際的な調査委員会を立ち上げ、福島第一原発でいったい何が起きたのかを検証し、そのプロセスを世界に公開することで、この不幸な事故の教訓を世界の共有財産にして、日本国家の信用失墜を最小限にし、解消していくことが必要であると考えられた。このため、全米科学アカデミー等とメールで意見交換を始めたそうだ。それが、なんと3月15日頃の時点での話しだという。

ここまででも、一般人とは全く異なった視点で原発事故を見ておられた、そのレベルの高さがよく分かり、読者はその凄さに圧倒されてしまう。

 

海外では、国を揺るがす大事故や大事件が起きた時に、立法府(国会)が独立した調査委員会を作るのが当然のプロセスなのだそうだ。ところが日本では憲政史上、こうした委員会が設立されたことは一度もないとのこと。後日談で、この「国会事故調査委員会は日本憲政史上初」ということを先進国各国で知られるようになると、一様に信じられないといった反応が返ってきたらしい。ちなみに、イギリスでは年に2~3の重要な案件についての独立調査委員会が進行しているとのこと。

 

日本の中で、前例のないこと自体を立ち上げることの難しさは、みなさんもよくご存知の通りだ。

しかも、この事故調委員会は、おおむね半年間という制約があり、しかも、勤務形態や給与の支払い、セキュリティの管理まで、全く手探り状態で始めなければならないという、これを聞いただけでも、とても成しえないようなプロジェクトへの挑戦であった。

 

しかし、実際に現地視察や、東電や政府要人などに対してのヒアリングも行い、それを報告書としてまとめていった。しかも、黒川先生の凄いところは、この報告書には委員全員がサインをし、英語版まで作成したことである。全員がサインをしたということは、全員が納得するまで議論を重ね、質の高い査読がなされ、修正を根気よく繰り返したからこそできることではないかと思う。しかも、その内容が諸外国の人達にも分かるように英語版まで作成し、グローバルにオープンにしたことも、その品質の高さに自信がなければ決してできないことだと思う。しかも、委員会での議論や参考人聴取の様子や記者会見なども動画で公開されている。

 

1936年生まれという、一般的にはご高齢な年齢とは裏腹に、若い年齢の我々よりも、新しいことにチャレンジし、「出る杭は打たれる」ことを買って出て、原発事故という、本当にデリケートな問題にも果敢に挑んでいかれる姿は、本当に尊敬に値するし、我々も大いに見習わなければならない。