「医療組織のトップマネジャー」を読んで

「医療組織のトップマネジャー  病院経営を革新する変革型リーダー:その成長と行動」(渡邉豊彦 著:白桃書房2022)を読んだ。

 

この本は、著者自身が臨床医でありながら、MBA取得のために神戸大学大学院経営学研究科に入学し、

「そもそも、病院長の仕事とは何か、何を業務とするのか」を探るため、実際に病院経営に変革をもたらした病院長たちにリサーチクエスチョンを行い、「これらの病院長達が、どのように変革型リーダーになっていったのか」、そのプロセスを研究し、この本を執筆されたそうだ。

実際に読んでみて、非常にインパクトのある本であった。それは正に「病院を変革した病院長は、どのように変革型リーダーになっていったのか」、その過程が分かりやすく書かれていたからである。

 

基本的に大学病院などにおいて、各診療科の診療部長や教授になるということは、特に一族経営でもなければ、実臨床における診療能力が高い医師が選ばれることになる。そして、その診療部長の中から、病院長が選ばれていくことになる。

そういった臨床医として秀でたドクターが、医療機関という組織の「トップマネジャー」となり、後々その病院の業績を倍増させるなどの変革を行って、病院経営を飛躍させた場合、どれくらい実臨床での臨床能力が病院経営の変革に役立ったのかといった、聞き取り調査を実施されている。すると結論として、卓越した臨床医になっていくことと、医療組織内でのトップマネジャーとして成長していくこととは、同一平面上では語れないとのこと。つまり、臨床医の学習と成長が、トップマネジャーへの成長には結びつかないのである。

そう言われてみれば、確かにそうだなと感じる。しかし、この事実を、実際に変革を起こした病院長方が、異口同音にそういう発言をしているというところに、この本のインパクトがある。

むしろ、一から出直して、リーダーシップやマネジメントについて学び始めたと回答している病院長が非常に多かった。これは、クリニック・診療所を含め、あらゆる医師兼経営者に共通して必要となる「リスキリング」なのではないだろうか。

 

大学病院長をはじめとする、一人一人の先生方のコメントは、いずれも実感がこもっていて非常に印象的である。今まさに、「医師の働き方改革」で悩まれている医療者も多いのではないかと思われるが、そういった医療現場でのあらゆる経営層や中間管理職の医療職の方々に読んでいただきたい本の1冊である。