前回の続きだが、「常勝集団のプリンシプル(自ら学び成長する人材が育つ「岩出式」心のマネージメント)」岩出雅之著、日経BPを読んだ。
この本の中で、印象的な岩出監督の名言がまだまだいくつも見られる。
その一つに、「幸せ(フロー)になる技術」―自分の実力を100%発揮する方法
フローに入るための鉄則」というものがある。
強豪校との試合や、優勝・全国制覇がかかった試合は、非常に緊張すると思う。
しかも、そういった試合で、数点差で勝っていても負けていても、試合終了間際のプレッシャーたるや凄いものになっていくだろうと想像する。
その時に、各々の選手が「自分の実力を100%発揮」してくれるというようなことができれば、確かに勝利の女神は自分達に微笑んでくれる可能性は高くなる。
でも、どんな手法を用いれば、そんなことができるのか、明確に示してくれる指導者は今までにほとんどいなかったのではないだろうか。
それを岩出監督は心理学の手法を用いて、常日頃から選手たちに常々、
「明確な目標や目的、つまり、やるべきことが明確になっている必要」があることや、
「大事なのは「未来」や「過去」ではなく「現在」」であることを、徹底的に意識づけさせて、実行させていた。
多くの人は、何かしら大事な場面で緊張して上手くいかなかった経験があると思う。
逆に、大舞台であればあるほど力が発揮できるというのは、長嶋茂雄とか新庄剛志といった根っからのスーパースター気質を持った一握りの人達だけではないだろうか。
実は、信じてもらえないかもしれないが、僕自身、かなりのあがり症で、とにかく本番に弱い。特に若い頃はそういう大舞台の経験もなかったので、突然そんな状況になっても、全く対応することができなかった。
このため、高校3年生の時も京都大会も関西大会の本番も、実は自分の実力の60%程度しか発揮することができなかった。
ただ、毎年、関西代表にはなれずに終わっていたので、関西大会での演奏終了直後は、「ああ、やっぱり上手く緊張から逃れることができなかった。でも、これが自分の悪しき癖であり、しょうがないものだ」と諦めていた。
それが、まさかの全国大会出場。
全国大会当日も、本番演奏直前の普門館控室でのチューニングの時も、緊張で震えあがってしまって、音もグラングラン波打ってしまっていた。ただ、そのままごまかさずにいつもの音量であり得ない揺れ方をしている音を出して、自分自身の中では腹をくくっていた。本番もこの音が出ても仕様がないと。
ステージ上に座ると足が震え、抑えることができない。逆に抑えずに震えたままにしておいた。
そして、演奏冒頭のクラリネットのソロで、普段絶対間違えないコンサートマスターがリードミスをした。その音を聴いて、あいつでさえミスすることもあるのだと、逆に気が楽になった。
足がずっと震えたまま最初の音を出したところ、震えすぎて、スッと震えが無くなっていった。
その後は、不思議なくらい普段通りの演奏をすることができた。
岩出監督流の解説では、フローに入るための鉄則として
「上手くいかなかったらどうしよう」という「未来」の不安や、「もっと練習しておけばよかった」という「過去」の後悔に囚われないようにして、
「大事なのは「未来」や「過去」ではなく「現在」に心理エネルギーを集中し、いかに楽しむことができるか」。それを、1年間かけて練習や日常生活を通じて、自分をコントロールするように、部員全員で取り組むということだそうだ。
こんなことを、普段から教えてくれる指導者がいれば、どれだけの教え子が若いうちに実力を発揮する経験を得て、将来役立てていくのだろうと思う。
三振して帰ってくる打者に「バカヤロー!お前の替わりなんていくらでもいるんだぞ‼」などと今でも怒鳴っている化石のような監督は、あと数年以内でみんな駆逐されていくことであろう。