「恐れない組織」を読んで②

前回に続き、今回も少しだけ本の内容、特に紹介されている論文やエビデンスについて触れたいと思う。

Harvard Business School教授をされているだけあって、本当にEdmondson氏の着眼点や文章の説得力は際立っていると感心する。

 

著者は、「心理的安全性」はVUCAな世界で高パフォーマンスをあげるために必要不可欠なものとも述べている。

NY大学やVirginia大学の研究等が紹介されているが、人は言いたい内容が組織や顧客、自分自身にとって重要なことでさえ黙ってしまうことがある。これを「蔓延する沈黙」と表現されているが、口を閉ざす主な理由として「悪印象を持たれることへの不安」「仕事上の人間関係が悪くなることへの不安」などが挙げられている。これらの不安は、まさに「心理的安全性」の反対と定義されるものであり、本のタイトルにもなっている「Fearlessな(恐れない)組織」には存在しないものであるとしている。

 

実際に、2017年に行われた Gallop社の調査では、「自分の意見は職場で価値を持っている」の項目に対し、「非常にそう思う」と答えた従業員は約3割しかいなかった。2012年に同社が試算したところ、この割合が6割程度になれば、組織は離職率を27%減、安全に関する事故を40%減らすことができ、生産性を12%高められるとのこと。つまり、優秀な人材を雇うだけでは組織にとって十分ではないと結論づけている。

 

このため、「リーダーがどんなことをすれば、Fearlessな組織(誰もが率直に話をして、貢献・成長・成功し、チームを組んでずば抜けた結果を出す組織)を作り出せるか」が大切で、

そのために、リーダーシップのためのツールキットを「土台を作る」「参加を求める」「生産的に対応する」といった3つに分類することが示されている。

特にミネアポリスのこども病院長の例を挙げ、「(ミスについて)率直に話し合う土台を作る」ことや、「患者は、あなたが目指した通り、今週ずっとあらゆることにおいて安全であったか?」と上司の医師が部下の医師や看護師に尋ねることが示されている。

これは、「誠実で好奇心にあふれ、かつ、直接的な問いかけ」を行って、現場のスタッフに考えて発言してもらうように促した。そして、「なぜ、自分の視点が必要なのか」一人ひとりに説明していったとのこと。これにより、現場の医療スタッフは、率直に話しやすくなり、「沈黙が勝ってしまう」という状態を打破していったそうだ。

これは、まさに今日の日本医療業界においても大変参考になる事例ではないだろうか。