今週、就業規則について、株式会社MDネットの渡辺ユキノ専務取締役のご講演を聴く機会があった。
実際、嘱託産業医で訪問すると、ベンチャー企業など創設間もない会社の多くは、就業規則があまりきちんと整備されていないことが多い。このため、様々な場面で人事的に混乱することが少なからず認められる。
産業医としても、就業規則で明記されていないと、復職判定の際など、会社や社員に対してどの様に対応してもらえばよいかこちらも困惑しまうこともしばしばあったりする。従って、「就業判定」の根拠としての「就業規則」をしっかり整えておくことが、非常に重要である。
ご講演の中で、印象的だった一つに、「自己保険義務」という言葉がある。昨今、働く方改革が進む日本の中で、残業時間の厳守など、何かと会社の「安全配慮義務」を問われることが大変多くなってきた。
確かに、会社側はこの「安全配慮義務」を労働契約の基本として、厳密に順守する必要がある。しかし、一方で、会社側が「安全配慮義務」を遵守することの裏返しとして、実は従業員側も「自己保険義務」を果たさなければならない。
このため例えば、メンタル疾患で就業困難な状態になった社員を、「安全配慮義務」の観点から会社側は休職させると認定した場合、休職となった社員にもこの「自己保険義務」に努める必要が生じる。このため、休職期間中に海外旅行に行ったり、SNSであまりに楽し気な写真をアップすることなどは、ふさわしくないと考えられる。
現在のところ、「自己保険義務」については、法令上、どこにも明記されていない。
しかし、最近はこの「自己保険義務」を、社内の就業規則内に明記している会社も増えてきているとのこと。「自身の健康維持に十分留意し、体調管理を怠らないこと」などの文言を考慮することも、今後は必要かもしれない。
会社の就業規則を書き換えることは、非常に手間と労力がかかることであると思う。ただ、会社の中で、きちんと働いている人が損をして、楽をしようと考える人が得をするような状況は避ける必要がある。今まで少なからず蔑ろにされていたところが否めない「就業規則」であるが、これからの「働き方改革」の時代にきちんと対応するためには、しっかりと見直すべきところは見直して、今の時代に合った内容に改定していく必要があるのではないかと考えられる。