10月3~5日に、第34回日本産業衛生学会全国協議会が、かずさアカデミアパークで開催された。千葉県民だと、ある程度認知度がある場所ではあるのだが、木更津駅からさらにバス・タクシーで20分程、山を登って行った場所にある。ただ、様々な企業等の研究施設があるところでもあるので、東京駅からであれば、高速バスでダイレクトに行くこともできる。
今回、有り難いことに、この全国協議会のプログラム委員をさせていただくこととなり、その中で、第4期特定健診・特定保健指導の教育講演を提案させていただいた。今春から始まった第4期特定保健指導において、体重-2㎏減量することがアウトカム指標となったのだが、未だに産業衛生の分野ではあまり議論されていないところがあり、特に体重-2㎏の減量を行うことについての医学的エビデンスについては、なかなか周知されることが難しいところがあると感じていた。
そこで今回の全国協議会では、糖尿病・メタボリックシンドロームの臨床研究の第一人者である河盛隆造先生が最適任者であると提案し、教育講演の演者をお願いする運びとなった。
ご存じの方も多いと思うが、河盛先生と言えば、常に淀みなくお話しされることが印象的で、しかも、専門医から一般医・コメディカル・患者さんまで、聴衆がどんな方々であったとしても、そのレベルに合わせてスライドを長年自ら入れ替えられて、非常に分かりやすく講演されてこられてきた。
今回も、50年前のご自身のトロント大学留学当時のインスリン治療開発のお話から、最新のスポートロジーセンターの臨床研究まで、本当に幅広く、そして時々は場内を笑いの渦に巻き込みながら、大変分かりやすいご講演をしていただいた。その極めて高いプレゼンテーション能力は今もそのままご健在であった。
50年前の古い話と思われるかもしれないが、その頃の研究が、現在のCGM(持続血糖測定:Continuous Glucose Monitoring)といった、皮下にセンサーを装着して血糖値を連続的に測定する医療機器の礎になっていたことや、未だ経口インスリン薬は実用化には至っていない等、50年前にすでに糖尿病治療の将来像をイメージし、実際に長年にわたって研究されていたことが、今の最先端の糖尿病診療に深くかかわっているということには、本当に驚かされる。そして、実際にはインスリン頻回療法や頸動脈超音波検査の動脈硬化における有用性、肝臓や骨格筋におけるインスリン抵抗性のメカニズム等、数多くの医学的に非常に重要なエビデンスを発表し続けてこられた。
私自身、河盛先生がおられなければ、非糖尿病の男性メタボリックシンドロームを対象とした臨床的な減量効果を、インスリンクランプ法やMRS(MR spectroscopy)法等を用いて研究することは、全く不可能であった。こうした、前例の無い新しい臨床研究であっても、河盛先生に本当に温かく見守って応援していただいたからこそ、医学論文として発表することができ、現在、産業保健における健康増進活動に、医学的なエビデンスに基づいた取り組みができている。
まだまだお元気にされていたので、非常に安心もしたし、是非また、産業保健の現場で活躍されている多くの医療者の方々に河盛先生のご講演を聴いていただく機会を作っていければとも思う。