今月、産業保健フォーラム IN TOKYO 2019に行って来た。そこで、東京大学附属病院放射線治療部門長の中川恵一先生のお話を聴くことができた。中川先生は、日本経済新聞の夕刊に6年間も「がん社会を診る」というコラムを書いておられており、私も日頃から大変参考にさせていただいている。
このコラムはもちろん一般の方向けであるのだが、平易な言葉を使いながらも、なおかつ具体的な数字を示されたりして、ヘルスリテラシーが高まるように上手に書かれている。今回のご講演でも、非常に多くのスライドを示していただきながら、一般の方々がしっかり理解できるような内容で、かつ明日から役に立つ内容をお話しされていた。
まず印象的だったのは、日本人の生涯がん罹患率は男性62%、女性47%ということを強く強調されていた。「つまり、男性はおよそ3人に2人、女性は約半数の方が生涯に何かしらのがんになるのですよ」と仰っていた。
しかし、幸いなことに、最近はがんの治癒率が年々上がってきていることから、早期発見して、正しい治療を受けることが重要である。このため、「がんになる前に、がんを知ることが大切‼」ということも強調されていた。
一方で、「がん治療は、敗者復活戦のない一発勝負」でもある。このため、日頃からがんについてのリテラシーを上げておくが本当に大切なのだと仰っていた。ただ残念ながら、国別のヘルスリテラシーの平均点を見ると日本の点数はかなり低く、こういったことが欧米と異なり、未だにがん死亡患者数が戦後ずっと増加し続けている要因にもなっているのではないかともお話しされていた。このため、子供たちにがんについての正しい知識を持ってもらうことが大切であると話され、自身でもボランティア活動として、小学校などでがんについての授業を行っておられるとのこと。
また、もちろん、働く人たちへのがん教育も大切で、こういった啓蒙活動を様々な企業で行っていく重要性もお話しされていた。
2016年には、がん対策基本法が一部改正され、https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000168737.pdf、これにより、事業主は、疾患を抱える従業員に対し、治療と仕事を両立するために「柔軟な勤務形態」、「休暇・休業制度等」、「制度を利用しやすい職場風土の醸成」、「情報提供」、「早期発見・重症化予防」などの支援を行うことに努めることが責務であることが期待されるようになった。
時代の流れとともに、がんも変遷してきており、また65歳までのがん罹患率は15%とのこと。こういった情報を、正しく働く人たちに伝え、どういった対策や対応をすればよいのか、臨床医と産業医が連携して、両立支援を支えていけたらと思うし、我々もなお一層努力する必要があると考える。
そして、この産業保健フォーラム IN TOKYO 2019では、さんぽ会の幹事でいつも会計などのきめ細かな業務を卒なくこなしてくれている、株式会社リコー保健師の山下奈々さんも講演されていた。やはり、健診事後対応等においても、産業医と人事担当者だけでは、きめ細かな対応が取れないことも多く、こういった保健師さん達が活躍してくれると、企業内で上手にコーディネートを行ってくれるため、本当に色々な疾患において両立支援策を講じていくことができると感じる。「発表お疲れ様でした‼」。