「残業学(明日からどう働くのか、どう働いてもらうのか?)」(中原淳+パーソル総合研究所;光文社新書)を読んでみた。これは、今年、自分が読んだ本の中で最もお薦めの1冊かもしれない。
「パーソル総合研究所・中原淳 長時間労働に関する実態調査」として、昨年・一昨年の2回、全国の従業員数10人以上の企業の正社員(20~59歳)を中心に、総計22000人規模のデータを集め、残業についての分析・解析を行ったとのこと。この本では、その結果・エビデンスを踏まえて、具体的な解決策の提案もされている。
やはり、大規模な人数のデータ解析をしてみると、色々と興味深い新しい知見を得ることがある。
まず、60時間/月以上の残業をしている層は、「ストレスを感じているが、幸せ」と感じる割合が高くなっていた。これを、彼らは「残業麻痺」と命名している。
しかし一方で、60時間/月以上の残業をしている層では、「上司からのフィードバックが得られない」「仕事を振り返る機会がない」「忙しすぎて余裕がない」、「職場外での学びができない」といった成長阻害要因も、結果として如実に高い結果となっていた。また、総務省統計局「平成28年社会生活基本調査」では、80時間/月以上の残業をしている人達は、学習・趣味・自己啓発・社会参加活動などの時間が約4割も削られているとのこと。
また、残業しているのは、一般従業員よりも上司層で多く、その中でも課長職が最も残業を強いられていた。そして、残業施策ありの企業では、特に「部下に残業を頼みにくくなった(30.4%)」「休憩時間にも仕事をすることが増えた(30.0%)」と、近年では上司層が残業関連のプレッシャーを強く感じていることも分かった。
上司の仕事の割り振り方で見ると、平等に仕事を割り振る(39.6%)よりも「優秀な部下に優先して仕事を割り振っている(60.4%)」ことの方が、実際には多いこともデータとして示されている。
一方で、20歳代・30歳代の若い人や、常時残業時間が長い職場ほど、「周りの人がまだ働いていると、帰りにくい雰囲気がある」と答えており、「手が空いていると、常に別の仕事が割り振られる」と45時間/月以上の残業をしている一般従業員の30.4%が回答している。これらを、筆者らは、残業の「集中」「感染」と表現している。
そして、部下の残業時間の長さが「上司の若いころの長時間残業経験」と最も強く相関していたとのこと。これを筆者らは、残業の「遺伝」と言っている。
なかには「残業代を前提とした家計の組み立て」を行っていると回答している人が40.5%、「基本給では生活に足りない」と回答している人が60.8%もいた。
こういった悪循環を解消していくためには、減った残業代を「還元」することも考える必要があり、実際に実施している例として、SCSK株式会社や株式会社武蔵野、株式会社ディスコなどを挙げていた。
また、「希望のマネジメント」として、組織の生産性を高めていくためには、「グリップ(組織状況の把握)x(現場進捗の把握)」「ジャッジ(迅速・明確な判断)x(「何が大事か」の意思決定)」、「チーム・アップ(オープンな風土)x(ディスカッション)」という3つの力が必要であると説いている。
そして、それらを現実化していくためには、「業務の透明性」「コミュニケーションの透明性」「時間の透明性」が必要だともしている。
令和の時代の日本では、働き続けることが、もはや直接的に「豊かさ」を導かなくなってしまった。と同時に、すでに長時間残業が多くの点で日本経済の「足かせ」となってきている。こういった時代においては「残業をしない」という強い組織開発に対して、経営陣が強くコミットメントする必要がある。そして、従業員の個々の能力が最大限に発揮できるように業務改善を行い、「時間あたり成果」を上げられるように「チーム」としての職場づくりを行い、仕事と生活が共栄していけるよう、みんなで様々に協力し合って、時代を変えていくことが必要なのではないだろうか。