「THE TEAM 5つの法則」(麻野耕司;幻冬舎)を読んでみた。これは、予想以上に読み応えがあり、読み終えるまでに結構時間がかかってしまった。我々医師は今まで、「チーム作り」についてなかなか体系的に学ぶ機会がなかった。このため最近、「チームビルディング」や「チームコーチング」などについて勉強しているわけだが、今回もその一環として面白そうであったため読んでみた。
麻野耕司氏は、株式会社リンクアンドモチベーション取締役。この会社でモチベーションエンジニアとして、組織改善クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げ、国内でのHRTechの牽引役として注目を集めているとのこと。ここまで書いて、どれくらいの方がこの経歴についてご理解できただろうか。僕自身も、どこまで正確に理解できているか怪しい限りなのだが、ただ、皆さんもこの本を読むことによって、これらの意味合いを徐々に理論的に理解していくことができるようになっていくのではないだろうか。
そもそもリンクアンドモチベーションと言う名前を聞いても、どういう会社なのか全くイメージできなかった。このため、仕方なくググって検索してみた。すると、僕も見たことがあるCMが紹介されていた。それは、会議で「社長、また退職者が出ました」という発言を受けて、社長役の役所広司が「残業は減らしたのか」「減らしました」、「副業は認めたのか」「認めました」、「打つ手なし‼」と言っているコマーシャルの会社ということが分かった。確かにこのCM、かなりインパクトがある...。
麻野氏は、「チームの法則」を、精神論や経験則ではなく、経営学・心理学・組織行動学・行動経済学など、様々な分野の学術的知見を取り入れながら、理論的かつ体系的に説明してくれている。そして、過去の社会システムに自分でも気づかないうちに囚われてしまっていたりすることから生じる誤解を解き明かし、本来あるべきチームの姿を見出し、チーム運営を活性化させていくには如何にしていけばよいかを解説していってくれる。
実際に、リーマンショック後で業績が落ち込んでいた時期に、コンサルタントとしてクライアントに組織変革のノウハウを伝えているだけでなく、自社内でも徹底的にこれらのエッセンスを実践したとのこと。そうしたところ、売り上げが10倍になり、退職率も20~30%から2~3%まで抑制することができたとのこと。この成功事例も相まって、組織改善クラウド「モチベーションクラウド」は世間で大きな注目を集めるようになったそうだ。著書の中でも「想像していた以上の変化が、私達のチームに訪れたのです」と記している。
これは、僕達が伊豆で経験した「医師の働き方改革」と同じような現象だなと、読んでいて感じた。ただ、僕らは正直なところ、明確なビジョンがあった訳ではなく、結果的によい方向に動いていたというレベルであるが…(苦笑)。
本書の中で印象的であったことの一つに、「チーム組織内のルール設定をどうしていくか」という解説があった。設定していくためには、まずはチームを4つのタイプに落とし込み、それぞれのタイプに合わせて、ルールの設定を調整していくというものである。4つのタイプを考えるにあたり、「人材の連携度合い」と「環境の変化度合い」の2軸で考えていくとのこと。「人材の連携度合い」が高いのがサッカー型と野球型、低いのが柔道団体戦型と駅伝型。一方で、「環境の変化度合い」が高いのがサッカー型と柔道団体戦型、低いのが野球型と駅伝型。野球型はルール設定が多く、リーダーが決めることが多く、プロセスを評価していく。逆に柔道団体戦型はルール設定が少なく、メンバーが決めることが多く、成果を評価する。確認頻度は、サッカー型が多く、駅伝型は少ない。病院内で例えると、サッカー型は救急外来全体のマネージメント。刻々と重症度合いの異なる患者が次々と来院し、救急ベッドの空き状況や入院ベッドの空き状況も変化していく。心筋梗塞でカテーテル入院するような循環器内科の場合は、柔道団体戦型か。ルーチンワークが多いが、カテ室やCCUといった各セクションで万が一苦戦することがあれば、その都度、次の対応を考えていく必要がある。1型糖尿病患者のCSII(インスリンポンプ療法)導入目的の入院などは駅伝型か。あまり急性のトラブルは少なく、患者さん本人の理解度もよければ、淡々と進められる。野球型は、一般的な内科や外科病棟の業務か。様々な疾患の患者が入院してくるが、それぞれに対して、各々専門の内科医や外科医がしっかり対応していく。
こういった大まかなイメージ分類を行い、それによってルール設定を見本に照らし合わせながら行っていけば、病院内のそれぞれの職場や各職種によって、だいぶ明確な独自のルール設定をすることができ、かつ、各現場で柔軟に対応を取っていけるのではないだろうか。
著者は、「F1レースはコンマ1秒を争っていますが、どのチームも必ずピットインします。ピットインでロスする時間よりも、すり減ったタイヤで走り続けることでロスする時間の方が最終的には長くなるからです。 メンバーのエンゲージメントが低いまま走り続けるチームは、まさにすり減ったタイヤで走り続けるチームだと言えます。」と述べている。
著者らは「チーム作り」を自ら実践したことによって、「チームの共通の目的の実現に向けて、力強く走ることができるチームが生まれました。」と言っている。
今度は、全国の医療機関で「チーム作り」について真剣に考える時間を作り、すり減ったタイヤで走り続けることを止め、力強く走り直す、そういった時期に来ていると言えるのではないだろうか。