ある意味、問題作である。しかし、子育てで悩んでいる人や部下で困っている人などは、必読した方がよい本であると思う。
「ケーキの切れない非行少年たち」(宮口幸治著;新潮新書)は、新聞の広告などでもかなりインパクトがあった。しかも、最近の売れ筋ランキングでも上位に来ており、思わず買ってしまった。
タイトルのネーミングが秀逸であり、実際、少年院の子供達を精神科医である著者が詳細に調査し、治療教育を行っていくのだが、内容としては、幅広く多くの子供達(大人達)にも本来は必要である調査や治療教育であることが、読んでいくと分かってくる。
いわゆる落ちこぼれや不良となってしまった子供達に対し、今までの日本の教育では、どうしても上手くいかないところがあった。しかし、うまくいかない箇所とはどういったことなのか、そして、どのように対処方法を行っていけばよいのかが、明確ではなかった。
この本は、そういった今までの教育の限界や今後の治療教育方法を提示してくれているというところで、非常に画期的であると思うし、すでに多くの方が読まれているのだと思う。
詳しい内容は、是非、本を実際に読んでいただきたいが、そもそも「認知」ができていない子供や大人が多いということが根本的な原因である可能性が高いということに注目している。聞いたことや書いてあることの言語理解や、相手の表情をしっかり見て理解することなどが、そもそもできていない子供が予想以上に多く存在すること。そして、それらの兆候は小学校2年生の頃から現れているとのこと。
メンタル疾患で休職した若い社員が、復職後、結局上手く仕事が続けられず再休職したり、退職していったりすることも、しばしば見受けられるが、彼らの中にもこういった認知が子供の頃から上手くできない人も少なからず含まれているのではと感じる。
さらに、これらを裏付けるかのように「あおりの理由 思い込み半数 加害者「進行邪魔された…」 警察庁が初調査」という記事が日本経済新聞にも掲載されていた(2020年6月23日夕刊)。この記事によると「あおり運転の原因は、加害者側の認識では「進行を邪魔された」が最多の47件で、「割り込まれた・追い抜かれた」29件、「車間距離を詰められた」11件など。9割超の計122件で被害者側の行為に端緒があったとしている。しかし、捜査で実際に被害者側がそのような行為をしたと確認できたのは58件だった」とのこと。 実際に、正確に状況を「認知」できない大人がたくさんおり、そういった障害が子供の頃に改善される機会を逸したために、こういった不快な事件が全国でも多発しているのではないだろうか。
このため今後、小学校から高校まで、現在のカリキュラム以外に、該当する子供達には、きちんと「認知」することができるような治療教育を積極的に行っていく必要がある。
九九ができないとか、漢字がなかなか覚えられないとか、怒られても反省しないといった生徒の中に、こういった障害を抱えている子供が含まれていることを、大人がしっかりと認識し、早い段階でその治療教育を行っていく。
これまでは、そういうことを大人達がきちんと認識できておらず、ただただ叱るばかりで、結果的に落ちこぼれを作ったり、非行に走ったり、場合によっては凶悪犯罪に手を染めたりといった経過をたどってしまっていた。その根本の原因には、こういった「認知」に関する障害を持っている子供が多いこと。そして、その対策を義務教育の頃から行っていくことで、こういった不幸な犯罪を大幅に減らしていくこともできるかもしれない。
こういった取り組みを、日本中で上手に行っていくことは、多くの若者たちが劣悪な犯罪やあおり運転などの加害者になることもなく、そしてそれによって一般市民も被害者となることがない社会を作り上げていくことができる大きな可能性を持っていると考えられる。