本の出版に追われ、それ以外の様々な仕事が滞ってしまっていた。
このため、本の出版の喜びに浸る間もなく、別の原稿の締め切りなどに追われる始末である。
大抵、京都に帰省すると、通常であれば、実家でゴロゴロしながら家族でお互いの近況報告等をしたりしている。
今回も、基本的にはその様に過ごしていたのだが、どうしても締め切りが迫っているものが2つあった。
実は、京都にいた頃、浪人生時代もほとんど家では勉強をしていなかった。
では、勉強する時はどの様にしていたかと言うと、とにかく予備校か図書館であった。ただ、予備校はあまり近くなく、夜であれば公営の図書館などはもちろん閉まってしまう。
そこで、僕が行っていたのが「私設図書館」である。実は、インターネットで「私設図書館」と検索すると、銀閣寺道の交差点傍にある「私設図書館」が真っ先に出てくる。
ここは、原則「私語厳禁」であるのだが、昭和48年開設の本当に古き良き昭和の2階建ての一軒家程度の大きさの建物だ。入り口を1歩踏み入れると左手が受付で、そこで着席する席を指定する。そして、手書きの入室時間が書かれたしおりのような紙を受け取り、その席に行く。
料金も良心的で、週末は4時間以内360円。1杯コーヒーか紅茶のサービスがある。先程のしおりの下部分が、その無料飲み物チケットになっており、そのチケットを入り口の受付に持っていくと、準備が出来次第、自分の席まで従業員が持って来てくれる。
僕は、昔と同じように2階の席を確保したのだが、わざわざ階段を上って持って来てくれた。
それ以外にも、冷たいほうじ茶は無料で飲むことができる。昔は黒い大きめの茶碗に入れて、これも従業員の方が持って来てくれていたのだが、今はコロナの影響で、紙コップが用意されていた。
勉強に来ているのは、通常は何かしらの受験生。高校生か浪人生である。今の時期は、受験生はいないと思われるので、学生や社会人が目に付いた。
僕が浪人していた頃は、団塊ジュニア世代なので、受験生で溢れていた。そして、1年中席を確保しているような司法試験を控えている大学生がチラホラいた。
今や、こんな歴史ある古い建物の「私設図書館」であるが、Wi-Fiが完備されており、各席にはコンセントが2つずつ備えてあり、時代の流れを感じずにはおれなかった。
近年は、そういったノスタルジックな建物や雰囲気が注目され、NHKなどのメディアでも何度も取り上げられており、その館内の風景などは、是非、インターネットなどで検索してもらえればと思う。
今や在宅勤務やノマドワーカーなども一般的になり、こういった場所で仕事を行うことも珍しくなくなってきた。
そうすると、かつては浪人生や大学生が勉強するところだった、この「私設図書館」も、社会人との場所取り合戦が激化しているのではないかと、勝手に心配してしまう。
お蔭様で、思った以上に締め切り原稿も捗り、無事に提出することができた。やはり、僕にとっては、「私設図書館」の存在が本当に有り難い。もしこの「私設図書館」が近くに無ければ、とても医学部になんか入れなかったと思う。
家に帰ると父親がポツリ「お前は本当にあそこの図書館がすきやなぁ」と呆れられてしまった。