「インスリン物語(新装復刻版)」(二宮 陸雄 著:医歯薬出版株式会社;2015)を読んだ。実は、今年はインスリン発見100周年の記念すべき年なのである。
今まで「いつかは読まないと」と思いながら、なかなか手が付けられなかったが、上梓も無事に終えることができ、コロナでステイホームでもあったため、「今しかない」と思い、最後まで読み切った。
初版は2002年とのこと。今まで読んだことがなかったこと自体が、糖尿病専門医としてはお恥ずかしい限りではあるが、これほどインスリン発見までの歴史を詳細に書いたものであるということを全く知らなかった。
日本で最初の糖尿病患者が、当時一世を風靡した平安時代の藤原氏と言われていることぐらいは、何となく聞きかじりで知ってはいたが、それよりももっと以前の、しかも世界的なインスリン発見までの歴史について、これほど詳細に調べられていたとは、かなりの驚きである。
そういった意味では、この本は、インスリン・糖尿病の歴史を知る上で、糖尿病診療の関係者としては、1冊必ず持っておくべきと言えるかもしれない。
トロント大学における若きバンティングとベストのインスリン発見までの、意外性に富んだストーリーは有名であるが、その貴重さが、改めてそれまでの苦難の歴史を知ることによって際立って感じることができた。
数年前に、河盛隆造先生とお食事をさせていただいた際に、ベスト先生と河盛先生とのやり取りなどを聴かせていただいた。
我々は、膵臓全摘犬マージョリーと2人が笑顔で写っている写真くらいしか知らないわけだが、その写真を初めて見た時、僕自身、ベスト先生はクイーンのロジャーテイラーに似ているなと思った(程度であった)。(大変失礼しました…)
写真を見ると、非常にイケメンで温和な印象である。ただ、実際には気難しいところもあったそうで、河盛先生も苦労されたようであった。
ただそれも、インスリン発見以降のバンティングとベストの数奇な世の中の評価などに翻弄された人生を送らざるを得なかったことが、そういった振る舞いにならざるを得なかったのではないかと、僕などは考えてしまう。
是非、記念すべき100周年。皆さんも是非、ご興味があればご一読いただければと思う。