「恐れない組織」を読んで①

「恐れない組織;「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」(Amy C. Edmondson著、野津智子 訳:英治出版株式会社2021)を読んだ。

 

結論からすると、圧倒的に内容の充実した本となっている。個人的には、あらゆる組織の経営層や中間管理職の人間にとって、最優先されるべき必読書であると思う。

 

僕自身も、講演会等ですでに「心理的安全性」というキーワードはよく使わせてもらっているが、「心理的安全性」という言葉を初めて知ったのは、例のGoogle社のThe NY Times Magazineの特集記事で詳しくレポートされた、通称「プロジェクト・アリストテレス」によってである。

しかし、その「心理的安全性」という概念に、どの様な歴史を辿って行き着いたのか、そして、どの様なエビデンスがあるのかといったことまでは、正直、ほとんど不勉強であった。

この「心理的安全性」という概念に辿り着き、数々のエビデンスを発表してきたのが、この著者の心理学者Edmondson氏というHarvard Business School教授されている女性である。驚いたことに、彼女自身もはじめから「心理的安全性」を研究しようと思っていた訳では無く、様々な研究を行っていくうちにこの概念に辿り着いていったそうだ。

Googleの「プロジェクト・アリストテレス」でも、最初は注目していなかったが、最終的に辿り着いたのが「心理的安全性」。僕も、医師の働き方改革をサポート支援するにあたって、たまたま辿り着いたのが「心理的安全性」だ。この「心理的安全性」という概念は、意識していない時には上手く認識し難いものらしい。しかし、だからこそ、きちんと理解し、意識して「心理的安全性」を高めるような組織環境を整えることが大切だということが、この本を読むとよく分かってくる。

 

そして僕自身、この本を読んで最も衝撃的だったことが、Edmondson氏が「心理的安全性」という言葉に辿り着くきっかけとなった研究が、まさに病院での医療ミスに関する研究調査であったとのこと。

病棟によって人的ミスの件数が10倍以上の差が出ることもあり、その要因として、「メンバー同士の尊敬しあう気持ち」「協力の度合い」などが挙げられ、ミスなく安全に治療を行うためには、医師と看護師間でコミュニケーションを取る必要があるということであった。そして、優秀なチームは、ミスの数が多いのではなく、報告する数が多いとのこと。これこそ、「ミスについて話せる」と感じられるかが重要で、そこから「心理的安全性」という言葉を意識することに至ったそうだ。

 

その後の研究において、心理的安全性があれば、学習やパフォーマンスが向上し、死亡率が低下することが明らかとなっていった。

医療業界の方々から時折、「「心理的安全性」と医療とにどんなエビデンスがあるのですか?」「根拠のないことを言われても困る」と言ったことを言われることもあった。

しかしながら、実はそもそもとして、「心理的安全性」という言葉が世の中に知られるようになっていったきっかけは、病院内の医療事故に関する調査研究から始めっていようとは、僕自身ちょっと予想もしていなかったことだ。

 

こうした「心理的安全性」という言葉が広まっていった経緯などについても、今後、本当に多くの医療者に知ってもらいたいと思う。