今月の伝塾の勉強会では、実はHbA1c値と就業制限についても話題に上がった。
私も産業医になるまでは正直知らなかったのだが、日本の特に大手企業では、健康診断の結果等でHbA1c値が高い場合、残業禁止や就業制限シフト勤務禁止などの就業制限をかける会社が非常に多い。
その理由として、会社側には安全配慮義務があり、著しい高血糖がある社員をそのまま放置することはできないとの考え方がある。
中には、HbA1c値が12%以上などと極めて高血糖を認める場合、その社員に休職等してもらい、糖尿病教育入院なども積極的に行ってもらい、しっかりと血糖コントロールができるようにしている企業も珍しくない。
私自身、名刺交換時などの自己紹介の場面で、糖尿病専門医かつ産業医ですとご挨拶させていただくと、相手が産業医の先生であった場合、「あなたの会社ではHbA1c値が何%なら就業制限をかけてられますか?」と必ずと言ってよい程質問される。
それくらい、各企業では「HbA1c値が何%であれば就業制限をかける必要があるのか」非常に気になっていることの裏返しであると言えるのではないだろうか。
一方、日本糖尿病学会では私も含めて、まさか各個人のHbA1cの値によって、残業禁止や就業制限シフト勤務禁止などの就業制限がかけられているとは、世の中のどの糖尿病専門医も想像すらしていないというのが、現状ではないだろうか。
ただ、私も産業医になってみて分かってきたことだが、企業としては、特に製造工場勤務者や高所作業者、重労働者、一人職場での勤務者など、確かに著しい高血糖があった場合、業務中にトラブルが起こる可能性を考慮する必要がある。そういった意味では、血糖コントロール不良な糖尿病を持つ社員に就業制限をかけることは、やむを得ないと考えられることも多いと思う。
こういったことを日本糖尿病学会の先生方にも広く知ってもらい、今後「HbA1c値が何%であれば就業制限をかける必要があるのか」について、日本産業衛生学会の先生方とディスカッションしていける場を設けていくことを、「令和」の時代にはいよいよ真剣に考えていく必要性が高まってきていると言えるのではないだろうか。