「わかりやすいメディカルマーケティング」(真野俊樹 編集:中外医学社2022)を読んだ。
この本は、編集者自身が医師でありながら、戦略経営研究科教授という肩書からも分かるように、医療とマーケティングの関係について長年携わってきたことを、医療者のために分かりやすく書いてくれている本である。さらに、数人の共著者がヘルスケア領域におけるマーケティングや、マーケティングそのものの基本についても分かりやすく書かれているので、内容も幅広く、多くのことが勉強できる。
来年以降、「特定保健指導」においても「健康経営」においても、今までとは比べ物にならないくらい「クオリティの高い健康増進対応策」が求められるようになっていくと考えられている。
しかしながら、現状としては「ポピュレーションアプローチ」一辺倒なので、あらゆる企業における健康増進対策にいよいよ行き詰りの様相感を見せ始めている。
近年、多くの健保や企業でよく用いられる手法の一つに「ポイントインセンティブ」や「ナッジデザイン」がある。実際に、歩いた歩数分だけポイントがもらえるといったことはよく見られるのだが、それだけの動機だけで始めた参加者だと、時間の経過とともに「習慣化」「継続」されていくというところにまで行動変容せずに、結果的に「挫折」していくことも少なからず認めるのも事実である。
このため、次の施策としては、食事・運動・睡眠・検査データといった、個々の健康についての支援ツールをアプリとして提供していくということが対策として取られていく。
そこに、「健康経営」などといった「官製のヘルスケアプロモーション施策」を活用し、各企業が社員の健康増進について「コストではなく投資」といった位置づけで、積極的に対策を行っていく。そうすることによって、エンドユーザーも負担感が少なく始めることができ、実績も作りやすくなる。そして、そのヘルスケアアプリもAIなどでどんどん学習していってもらい、人件費などをかけることなく、多くの人の健康維持・増進に繋げていくといった、重層化した仕組みづくりなどを紹介している。
医療におけるマーケティングにおいても、「医師や医療者と患者や生活者との関係性にマーケティング思考を応用する」ことも紹介されている。その一方で、病院などの医療組織にマーケティング「インターナルマーケティング」の考え方を応用することも大切だと述べている。この「インターナルマーケティング」は、サービスマーケティングの成果から、ES(Employee satisfaction:従業員満足度)なくしてCS(consumer satisfaction:顧客満足)無しという考え方から生まれている。特に従業員が顧客の相手をつとめるサービス業においては、ESなくしてCSはあり得ないと語っている。それは、「人こそが医療サービスの原資」である医療機関にとっては非常に重要なポイントとなる。
マーケティングの知識が全然ない医療者が読むと、非常に勉強になるのだが、知らないことが多いので、多少読むのが大変である。しかし、あらゆる医療者はこういったマーケティングのことについて、これからの時代、多少なりとも理解しながら医療やヘルスケアに関わらざるを得ない時代になってきているのかもしれない。
そういった意味では、どうしても読まざるを得ない本の一冊であり、かつ、読んだ後に、実際に自ら行動に移さないといけない時代であるとも言えるのではないだろうか。