「健康の経済学」(康永秀生;中央経済社)を読んでみた。サブタイトルは「医療費を節約するために知っておきたいこと」。著者は東京大学大学院医学系研究科 臨床疫学・経済学教授で、外科医から公衆衛生学に移られた先生だそうだ。
中央経済社から出版されているということで、一般の方々向けに書かれた本であると思われるが、内容は本格的でかなりしっかり読まないと、スラスラと頭に入ってくるような類の本ではなかった。しかし、その分、日本の医療問題についてや、今後我々はどの様に考えていけばよいのか、大変勉強になる良著だと感じた。
参考になる項目がたくさんあったのだが、特に印象的だったのは、「予防医療の重要性」についての項目であった。以前は、予防医療を行うことによって医療費を削減するということが目標と考えられていた。僕自身も、そうしたいと思って興味を持ち始めたところがあった。ただ、予防医療が進み、みんなが長生きすれば、その分高齢者になってからの医療費が増えていってしまう。このため、医療費を減らすということはできないと考える方が正しいと、本著でも書かれている。
ただし、家庭医が地域住民の健康管理や疾病予防を担当し、住民1人当たりでの定額報酬を受ける「人頭払い」の仕組みを、イギリスに倣って導入すること等を提案されている。こういった仕組みを導入することによって、過剰・不要な検査や処方をかなり減らすことができる可能性がある。
患者さんにとっても、健康上の問題をいつでも身近に相談できる家庭の存在があれば、ドクターショッピングなどを行う必要も無くなるのではないだろうか。そして、働く世代が元気で暮らせることができれば、労働人口の減少の抑制にも寄与することができる。
その他にも、医師の地域偏在の問題や、医師の業務のタスクシフトについて、病院の再編や地域包括ケアシステムの重要性など、考えさせられる話題がたくさんあった。
各項目において、主要な医学的エビデンスも随所で紹介されており、どういった根拠に基づいているのかも明確なため、これからの日本の医療を考えていく上で、我々にとって教科書的な存在の本であると言えるのではないだろうか。