今月の文天ゼミでは、我らが浜口伝博先生(ファーム&ブレイン(有)取締役、産業医大教授)がご講演された。タイトルも「産業医は時代の変化についていけるのか」といった、正に今の日本の産業医の状況を端的に表している表題だなと感じた。下記に先生がお話しされた内容を少しまとめてみた。
労働安全衛生法が制定された1972年以降、国内での労災死は格段に減少してきた。そういった意味で、産業医は職場の安全を守るということに大きく貢献してきた。
しかし近年、産業医の法的要求は、職場の安全を守るための「職場巡視」「安全衛生委員会への出席」の他、「健診後の事後措置」「メンタルヘルス対策」「過重労働面接」「復職判定・復職支援」と、どんどん多様な事柄に対しての要求も高まってきている。
特に4年程前からは「ストレスチェックの実施」が始まり、発達障害や新型うつ病などといったメンタル不調者の対応も増加してきている。そして今年からは「産業医の権限強化」が認められ、さらに様々な企業で「健康経営」に大きく産業医が絡んでくることが珍しくなくなってきた。
こういったことから、産業医は「プロフェッショナル産業医」であることを、多くの企業から期待されてきている。
近年、日本医師会認定産業医は10万人に達したが、実際には産業医専門医の資格を持っている医師は500人余りしかおらず、労働衛生コンサルタント資格を有するドクターなどを含めても、まだまだ「プロフェッショナル産業医」のレベルで機能しているドクターはかなり不足している。
そういった意味では、急激な勢いで、産業医は「“量”の要求が終わり、“質”の要求が到来した」とお話しされていた。
そして、厚生労働省も「産業医を選任することで → 健康で活力ある職場づくりに大いに役立ちます」と言ったスライドを作ったりもしている。
これを深堀りすると、会社の中で、発症予防・エンゲージメント向上、職場改善・制度改善、そして経営戦略についてといった、すべての項目において、産業医には期待をされていると言い換えることもできるのではないか。
つまり、「安全管理」「健康増進」そして「コミュニケーション能力」のいずれをも兼ね備え、ただ単に産業医の「職務提供」を行うだけではなく、経営・管理職と一般社員との風通しを良くしながら「現場の課題解決できる実務力を持った産業医」であることが、今の世間からは求められているのではないかと、熱く語っておられた。
この会の後、厚かましくも飲み会にも参加させていただき、今年から浜口先生が音頭を取って発足する「産業医アドバンスト研修会」にて、日本全国の産業医が「プロフェッショナル産業医」を目指す先生方の支援を、同友会理事長の高谷先生や順天堂大学総合診療科専任准教授・さんぽ会会長の福田先生等とも一緒に盛り立てていきましょうということで、大いに盛り上がり、楽しい宴となった。